壁の花の叶わぬ恋
」のレビュー

壁の花の叶わぬ恋

ジョージー・リー/さちみりほ

胸を張って生きる

2018年9月2日
微妙なポジションの伯爵家次男坊ルーク。彼の粘り強さ、ジョアンナを諦めず何度でも戸を叩く頑張りが、真っ直ぐで良い。
私の大好きな、相手がどこの誰かわからなくても本気の恋に陥る話。身分に関係無く氏素性無く好きになってしまった者にとり、進むことが少しも容易くない恋路を、この話は二人が意思で貫徹させる幸せを描く。笑顔で賑やかなカーテンコールを迎えて、軋んでいた人間関係は穏やかになっていた。そこは、主題ではないとばかりにその過程を見せず、二人の結び付きの強さがまわりを変えていった、といった感じで。

歴史に文句言ってもしょうがないが、家庭教師という教育者が、職業を持つという事への昔の理不尽な蔑みと、落ちぶれた中途半端な生い立ち(ヒロインは違うが)を持つ者への憐れみとから、その知性と教養にも拘わらず良く扱われはしない、というのが本当にいつも悲しく思う。読み手として、目の前の状況を見せつけられるだけなのでもどかしく、どんなに健気に生きていても辛い半生を感じさせられるエピソードがついて回り胸痛い。
しかし、ここはHQ、訳あり人生の家庭教師を、幸せのどんどん返しに導いてくれるのだから気持ちいい。

彼ルークに、そんな世のひずみを嘆かせて、こちらの割りきれない思いを代弁してくれたのも良い。
胸を張って生きる、と、ロマンス外のところでも尚貫かれる物語のメッセージが凛々しい。


二人でいるところを見つかってしまう場面、当方の悪い予感の通りになりながらも、静かに確かに盛り上がる二人の感情を見せてくれて、物語世界に入り込めた。

ルークがヒロインに訪れた幸福を想って踏み出せなくなるシーンが胸を打つ。

デュポア院長先生は教育者の鑑。私もそんな師に巡り会いたかった。

これまでのジョアンナの人生は、温かな人たちとの出会いはいろいろあったにせよ、過酷な運命が横たわっていて、回想シーンは読んでいると泣けて泣けてたまらない。
しかし、そのなかで、頑張って、自分に恥じるところなどないと顔を上げて生きてきたヒロインの美しさ!
高い人間力を持つ保護者でもあり、同時に素晴らしい師のいる学校が家庭の代わりとなった。良い友にも恵まれた。

好きな人に出会えた。相思相愛になれた。
しかし、一緒になれないかもしれなかったときの苦しみは察するに余りある。
本当に、幸せになって良かった。

邦題は相変わらず違和感しかない。
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