桜人
」のレビュー

桜人

草野誼

ちょっと泣けるなんてレベルではなく

ネタバレ
2019年3月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 嗚咽が出てきそうで、外で読むのはまずかった。
絵は地味、内容もいまわの際の話、外の明るい所で、少し騒がしい位の所で読めば、話に飲み込まれずにいられると踏んでのこと。
実際のめり込んでしまうと、人目の無い所で読むべきだったと思い切り後悔。

話は簡単に作っていないのがありあり。
といって、演出過剰な訳でもない。
無表情な花森木工所の職人、梻-しきみ-慶太郎(下記にウィキった説明文転記)が関わる女性達の話。名字が意味深で、下の名前に慶の字を用いる(さも一般的な名前が選ばれている)レトリック。
何もかもお見通し、といった風情な雰囲気を保つにはいいか知らないが、終始無表情で性別さえ中性的。

各話に登場する女たちがこれまた胸がキリキリさせられるくらいの人たち。生きざまがもうドラマ。

しかし、一人一人の決して一様ではない人生の山谷を、追憶や死後の絵で語ってくるので、どの話も苦しいくらいあらゆる感情を呼び起こす。説明の文字に、手がかり程度にあっさり添えられた絵だけで、語られる物事のその誰かしらに、読み手のこちらは境遇への共有感覚を飛ばせる。
シンプル過ぎの絵柄が勝手な想像力を誘う。

私は漫画を読むときは、ビジュアルを大切にしているほうだ。でなければ文字だけの小説のほうが豊かに語るから。
この作品は漫画作品として私が期待する絵柄を見せない。辛うじて人の区別、描かれたものが何なのか、登場人物たちが皆自分の人生をもがいて一生懸命過ごした日々が判る。
それなのに、実に心の奥深くにストーリーが入り込むために、絵柄が気にならなくなってくるのだ。

逆にここまで巧みな物語展開でなかったら、絵が気になって仕方がなかったろう。実際読んでいて、忘れたと言ったら嘘なのだから。
それでもこのストーリー、暗くて、カラッとした所はほぼない。それ故描かれたものが引き立つのかも知れないが、物語の力が星数を決めた。心が折れる話ではない。田中メカ先生の「お迎えです」でも読みたくなる。

着眼点の勝ち、と言える。作者は医療看護系の人?

読みホじゃないと読まなかった。材料が平気そうならお勧めする。

シキミ(樒、櫁、梻、学名:Illicium anisatum L.)は、マツブサ科シキミ属に分類される常緑小高木-高木の1種。有毒で、実の形状は中華料理で多用される八角に似る。仏事に用いるため寺院に植栽される。別名、「ハナノキ」、「ハナシバ」
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