はじまりのにいな
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はじまりのにいな

水森暦

ずっと好きな人と遂に結ばれる転生ラブ

2019年5月4日
よく生まれ変わっても、と言うが、半実現するストーリー。家族愛に泣かされる。胸を衝く場面が多い。前世と現世とを主人公にいなが取り結ぶも、正体を名乗り出ることは終に無し。千歳の想いを届けるのも、あくまで他人として伝えるという形式をとる。無闇矢鱈に現状の人間関係を荒らさない。多分時間移動話で言うところのタイムパラドックスを回避する為と思われる。

単発が連続物になった苦しさを、言い訳のように折に触れ先生が柱などに書いている。行き当たりばったりな出版側事情が一連の作品としての流れを明らかに損なっていて、歓迎出来ない。出版不況下の苦しい戦術(だから余計漫画全体のクオリティが下がる)、白泉社系では「ラストゲーム」も一つ目の区切りの後、急な続編で、見るからに繋ぎ方に苦労が見えて気の毒だった。
しかし、本作はそれだけインパクトある作品だった訳だ。事情を知らない人に消化不良を起こさせたくない気持ちは判るが、説明は一回で簡潔に。勿論最終着地点を作者が知らされずに、編集に振り回されて、制作させられた、突然終わらされた、というような裏事情も分かって欲しいのだろう。1巻目初版段階は書名に(1)が付けられないケースがよくあって、残念な感じがすることがある。
それでも延長戦企画に対して何事もなかった様に繋げて欲しかった。友達エピソード、遠距離恋愛や進路決定、前カノなど少し引き延ばしっぽくて、有機的な感じが少ない。同級生男子の幼い好意は微笑ましい一方、彼の弟達の探し物の件は、つぎはぎ感拭えず。弟千晴のターンの涙物場面、両親の苦しみなどは、連続物としての広がりが出てこちらは良い。

前世は千歳と自覚しているにいなは、千歳の恋人だった篤朗に再び恋を始める。転生要素が話を面白くしているが、千歳でなくにいなとしての今と未来に話が軸足を置いたのが、良かった。二人にとっても「二度目」の恋、の位置付けなのが、話に前向きのベクトルを力強く与える。
序盤は、「ちゃんと篤朗のとこに帰ってくるよ」で胸を打っておいて、喪われたものの喪失感が実によく描写されている。

第6話の扉絵路線の方が良い。7,8,9話は泣かされた。
只、事故多過ぎ。

本作以降水森先生の力作を待っている。応援しているので、本作を越える印象を残す作品を産み出して欲しい。
本当はピアノの森を読んで記念に1000レビュー目にする予定だったが、予算足りずこちらを優先。
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