卒業生-春-
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卒業生-春-

中村明日美子

肩にしみ込む熱い雫を 俺は誇らしく思った

2019年8月7日
「同級生」では少しだけ離れていた二人の脚、並んで座った時の微妙な距離が、「卒業生-春」で膝っ小僧がくっ付く。接近の進んだ描写に時間経過と心理的距離感の壁が最早無いことを象徴させる。関係の進展を急がず、わき見もせず、横恋慕も斥けて、大切に醸成された二人の恋。

佐条ママのリアクション、ほーそう出たか、と留守番しながらの二人の様子がほほえましかった。

揚げ足を取るようだが、最短の9年では済まないかもしれないのが、その大学の悪名高いひどい留年かと。
また、佐条は当然卒業生総代では? 原先生のお前らどうしたのだけで済む方が不思議。

この話は、二人が学校内でも往来でも堂々だし、教師も自由、親からも同性同士だとのストレスがかからない。そこには厳しさを持ちこまず、ありがちな壁を描く話ではない。二人はほぼ順調に愛を育んで行く。
そして、自然体で、20歳になったら、との約束。
そういう意味で甘味の強い筋立て。緊張や苦しみの場面によって二人が揺さぶられるのを見たかった人には、物足りないかもしれない。

二次元の表現空間に、立体感への執着を見せず、寧ろ堂々とペラペラな、紙のような人物が飄々と居た。よくも悪くも印象に残るビジュアルの漫画。つくづく食わず嫌いは人生を小さくしているなと痛感。

手が、腕から絡み合うシーン、二人の気持ちと肉体的融合の気分のシンポリックな投影を思わせ、エロティックに感じる。
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