パブリックスクール
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パブリックスクール

樋口美沙緒

愛を持たない王様と愛しか持たない小鳥

ネタバレ
2019年8月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 人種や階級制度に縛られた全寮制男子校の中で、イギリス人と日本人のハーフかつ庶民であるがゆえに「混血児」と罵られる天涯孤独の主人公・礼と、イギリス屈指の大企業で爵位のある名門家に産まれ、学校では寮代表として頂点に君臨するエドワードの片思いの物語です。ここで言う「片思い」というのが礼とエドワードの互いのことで実質的な両想いなのに、イギリスの社会的背景によって実を結ぶことが困難なことに苦しさともどかしさを感じます。
「檻の中の王」では幼い頃の二人の淡い恋とパブリックスクールに入って礼を避け続けたエドの様子が描かれ、「群れを出た小鳥」ではその理由が解明します。「八年後の王と小鳥」では、どれほどエドが権力や財力をつけても二人に立ちはだかる壁は高いと礼は痛感するものの、痛みを引き受けて二人で生きるという選択をすることで、礼に降りかかる苦難の全てを想定し礼を失うことを怖れていたエドを安心させます。この世の全てを持っていそうなエドの「俺はお前しか持っていない。お前しかいらない」というセリフは、エドが唯一礼からしか貰えなかった愛を示し、読み手をぐっと苦しくさせます。強さの象徴ともいうべきエドの人間的弱さが初めて露呈されます。
シリーズを通して13年分の愛が詰め込まれている素晴らしい作品です。
パブリックスクール初の単行本となる「ツバメと殉教者」では、英・日ハーフの寮監督である桂人と、同じく寮監督でありながら問題児でもあるスタンの物語が展開されていきます。礼とエドの話は終わっていますがこちらも面白いのでぜひ読んでもらいたいです。
【2020/10/10編集】先に「八年後~」で礼とエドの話は終わりと書きましたが「ロンドンの蜜月」で渡英後の礼とエドの話が展開されています。お詫びして訂正します。
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