シークと乙女
」のレビュー

シークと乙女

ハザマ紅実/キム・ローレンス

自由にしていいんだよ

2019年9月5日
シークものにしてはかなり奔放な展開。それでもタリク達の母親が環境に適応出来なかったという。その方が礎になって、ヒロイン達の今の居心地の良さは導かれたのだろう。
ストーリーはナンチャッテシークもので、名前と格好だけが中東風という気がしなくもない。登場人物たちはそれなりに日々目の前のことに取り組んでいるし、葛藤もしているのだが、いかんせん感情移入するにはあちこち展開がぶっ飛んでいるように思え、今一つ真剣な空気が私には足りなく感じる。二人とも思考回路が破れかぶれなところがあり、行動力のみで勝算の見込みが怪しい作戦を大真面目に企てる。初対面にしてはキツイ当たりを経て、トンデモ作戦で相手国に乗り込み、経験もないのに悪い女になろうとし、弟の女に分別がない(罠としたって暴走)、制止も聞かず町に飛び出すわ、呼び出されたプールで呑気に泳ぐわ、なんやかんや婚約なんてどこかに行ってる。軽い一人合点を見せつけられて、ドタバタはしてないけれど落ち着きもまた、ない。タリクの半裸はもう少し筋肉か骨格かで角張り方にメリハリをつけるか、質感を、曲線でも男性的な線で色気を出してくれたら、などと思うのは、難しい注文かな。

表紙の大きな緑の瞳は、その紛い物らしさを引き立たせてしまう。
シークものにする必要は果たしてあったのだろうか、というくらい何でも自由だ。

お決まりのクライマックスのヒロインお迎えシーンにもリアリティー皆無。

巧みな嘘という感じでも無いのに、どうも嘘臭さを感じてしまう。
桁違いの手切れ金や市井の暮らし視察も。

タリクの父親である国王についても、病のことが最後まで不明瞭。
弟が脇役として居すぎて、己の結婚問題というのに当事者意識を見せる場面は殆ど無かった。
写真に対する誤解への後説明もどこか取って付けた語られ方。

夢物語も此処まで軽いと歯応えが無さすぎる。

肩の凝らない明るい話で、気軽にサラッと読むには楽しめる。
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