熱いバレンタイン
」のレビュー

熱いバレンタイン

ヴィッキー・L・トンプソン/山口絵夢

ジャックはありのままの彼女が好きなのだ。

2019年11月10日
ヒロインのクリスタが、彼ジャックの才能を信じ、成功を確信するのが素敵なところ。彼女はずっと彼のキャリアを心から心配し、そして煙たがられかねない位に構ってきた。糟糠の妻は踏み台にされる危険が伴うが、この話は気持ち良い位クリスタがプロジェクトの成功に献身的だ。恋愛感情気付き後も、私欲度外視で彼に素晴らしいスタートをさせたいヒロインの心意気が沁みる。つい「私たち」と言ってしまうところが、ジャックでなくともこちら読み手の胸をくすぐる。まるで我が事のように取り組む姿が、静かに燃える姿を伝えて、力になりたいヒロインに、美しさを感じる。
彼の気持ち、ヒロインの気持ち、途中何回か描写を切替えつつ細やかに伝えていて、出来事に対する言動が自然。そのときどきの対応に対する判断の裏に動く思いや、期待もしたいけれど幻想に踊らないようにと自戒が働く場面など、かわいらしくも、もどかしい二人に、互いの思い遣りや温かさを感じる。
ありのままの彼女が好き、というのが私が最も好きなパターン。これだけでもう満足。

300頁の「秘密の武器」は、恋愛は上手い下手ではなく、相手を大切にする気持ちを込めるという基本が一番相手に効果があることを前面に出して良い。そして、「ついに彼女に情熱が伝わった」に至って、私の気分も膝を叩きたい感じに。

先の事がわからない、見えない中の、彼のためらい。
何事も順調に進むとは限らないのもそう。
しかし、有名人だから接近してきたのではない。
有名人になるからヒロインを振り落とした、そんなようにも見られがちな事の成り行きに、この物語のスケールの中では結構な行き違い。このクライマックスは、コミックで読んでいたがそれでも小説版で新鮮に楽しむ事が出来た。

プロポーズシーンは面白かった。兎角にロマンス小説にあるマンネリを、作者がなんとか変化させたい意図がいいと思った。

305頁の「心の中で想像するだけだった」。
なにも艶っぽい単語や表現を操らなくても破壊力十分。作者は別の意味で言葉巧み。

本筋ではないので省かれても仕方がないが、猫ちゃん、ペットホテルへ?、なんて素朴な疑問も。
「生意気な」の使い方に、抑制を求められる日本と異なる価値観、特に「自由」の国アメリカを味わえた。
ドナルド・トランプ氏が話のネタにされてる。
(日本での制作は2008年2月。)

459頁の誤植が残念だ。表紙写真も変だろう。
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