幸せの青い蝶/氷の令嬢
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幸せの青い蝶/氷の令嬢

くぼた尚子/リンダ・グッドナイト/ジュリア・ジェイムズ

二作品-別々の味わい 育む愛と潜む熱情と

2019年12月1日
技量の高い先生にかかるとドラマがこんなに味わえるのか、という事を思い知る。
空間に漂う静かな間みたいなものが、コマの隙間にも充ちて、読み手の関心を繋ぎ感情を絶妙に引っ張り、結末迄作者の構築している物語世界で自分が転がされている。
一見シンプルな絵なのに、何倍も語ってくる不思議な力。
尚、邦題はいずれもセンスが良い。

一作目-HQ定番の乳母物。頁の短さなど感じさせない豊富な内容に、読後、これを薄めて描く人多いだろうなぁと思った。
また、出来る子は周りから浮いてしまう、子ども社会での苦労も織込まれ、そこがまた変化球になって効いていて良かった。
何度読んでもマライアには泣かされる。
ヒロインの心情にもスッと同化してしまえるし、父親としても社会人としても情の厚い彼のキャラも、魅力だ。ビジュアルまで格好よいかと錯覚する。特に、「すまない/こんなことは(親密にならない)二度と起こらない」、といったときの回想の背中が!ヒロインは物を落としたり倒したり多過ぎだが。

二作目-こちらもさもHQ的展開なのだが、なぜこんなにも心に来るのか、作り物にありがちな設定だから、下手すると陳腐な作りに成り果てるかと思うのに、ヒロインの驚きをちゃんと共感出来た。
ディエゴはホワイトナイトの顔をして近づいたブラックメイラー。脅迫まがいに肉体の関係は結ばれたが、内実ヒロインの気持ちはもう取り込まれていた。望ましい形式を踏んでいなかったから、ヒロインの誇りが許さない。彼のやり方では、行き着く所はお金の清算しかヒロインは、人生のリスタートに踏み切れない。

彼も、ヒロインを踏みにじったことを悟るから、彼から許しを乞うことも出来ない。

ヒロインの中に彼への誤解というベースがずっとあったことが、ヒロインのわだかまりを氷解し、素直にさせるが、そこのプロセスはドラマの核のはず。
少し強引な飛び込み方に感じるのは、頁数の問題か?彼女の驚きからの変化はもう少しコマ有っても、とは思った。

HQコミックは短いためベッドシーンは申し訳程度でいいと思うが、官能的とかそうでないとか以前の事で、ストーリーの要素として、描写がキーとなるところで、 予想外に二人のエポックメイキングとしての視覚化が上手かった。

良家の子女は経営のことは知らされないのも不思議はない。互いに知らなかったのだ、本当のところを。

実力者の作品は読後の気分がいい。
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