ハピネス
」のレビュー

ハピネス

押見修造

傑作、その一言。

ネタバレ
2020年1月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ 押見先生の作品のなかでは他のレビュアさんからの評価が高くない作品のようですが、私はぶっちぎりの傑作だと思います。

この作品は最終巻を読まないと良さがわからないです。岡崎が物理的な意味でバンパイヤになるのはノラに吸血された時ですが、彼がバンパイヤであることを自ら主体的に引き受けたのは桜根を殺すことで勇樹を死なせてあげたその時ですね。それが最終巻の冒頭で、この物語が本当の奥ゆきや切なさを帯びてくるのは、そこからです。

そこからは時間経過が超高速度で描かれています。あっという間に老いていく自らの家族や雪子たちを遠目で見守る岡崎が最後に行き着くのは、文明が崩壊したことを思わせる荒野です。それは単なる心象風景かもしれませんが、いずれにせよ死ぬことができない岡崎が味わってきた、気の遠くなるほど長い孤独、それ故の絶望を感ぜずにはおれません。

この物語が「群像劇」なのは、洞窟を出た岡崎とノラの背後にかつて縁があった人々を描いた最後のシーンからも明らかで、岡崎の境遇を思えばひどく残酷な「群像劇」なのだけれど、この最後のシーンが救いにもなっています。桜根も描かれているのが考えさせる点で、彼も一種の被害者であったということなのでしょうか。
いいねしたユーザ6人
レビューをシェアしよう!