風のゆくえ
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風のゆくえ

粕谷紀子

自分で決める十字路

2020年5月2日
面白かった。

ヒロインの意志の強さ、追い込まれたときのたくましさ、危険にも怯まないで向かって行く勇敢さ、ヒロインの自分の力で前に進む姿は素晴らしい。
多少、謎の老人の作りが不自然だったとは思う。旅の長丁場、そんなに身体と時間とが許すものでもないだろう。また、仮面等で正体不明であっても、道中、背格好や声などの情報は得られる。老人臭など、体臭も。


全編、少し黒色が配分多目と思う。

この手の歴史的なドラマはよく、身内に敵方の間者が居たり、味方側に敵方へ寝返っている密通者がいるが、そんなことまで出来るかな、という出来事に白けてしまうことがある。

綺麗事の通用しない時代とはいえ、やるかやられるかの命のかかった争い事の絶えないところは、読んでいると、ストーリー中に殺される人数の多さに驚く。
日本の時代劇もバサバサ人が斬られるから、つくづく時代物とは生臭いものだと思う。

疫病以外では大勢人が亡くなるのは争い事とは思うのだが。

イタリアの二つの小国の話にベネチアが舞台となったり、ローマの存在が持ち出されたりと、権力争いなど、日本の戦国時代の西洋版風。ヒロインが自分から飛び出そうと何度もして自分の自由意思を貫こうとするわりには、女が自分1人ではいかんともしがたい非力さ、そんな時代背景にもどかしい気持ちを味わわされる。読み手は自分で将来を切り開ける時代に居るわけだから。最後はヒロインの意思尊重のシーンに、二人の関係の変化が現代人の読み手の私をほっとさせる。お話の世界だからヒロインに委ねられた人生の分岐点、ここまで二人の関係の行方に付き合わされて、結末も間近で、ヒロインの選択は?、となれば期待する方に進むわけだが、敢えて問うところに、物語を貫く主題を感じさせて締めくくりが締まる。

時代物、外国物を描く漫画家は、まず現代物ばかりの作家より私は力があると考える。
ただ好きな人と一緒になれるかなれないかで済まないそのスケールが凄いと思う。

ロドミアが辛くて苦しい恋路で胸が痛くなる。主人公クラリーチェに面当て等で敵役ポジションも取るが、まるでレミゼのエポニーヌばりの悲恋で、ヴィットリオの為にと、壮絶な献身だ。描写されないが、兄上様が知ったらどう思うだろう。

高評価の作品だから前から読みたかった。三巻構成と手頃なので週末に手を伸ばしたが、巣籠もりの時には好適な娯楽だなと思った。
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