宝石商リチャード氏の謎鑑定
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宝石商リチャード氏の謎鑑定

辻村七子/雪広うたこ

人と宝石にまつわる美しい物語

ネタバレ
2020年8月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作を一言で言うと、人間関係と宝石にまつわる物語と表現してよいかと思います。

女スリの娘として生まれた女性、レズビアンのカップル、ブラック企業の食い物にされる先輩、恋愛感情を理解できない女の子、実の父親にカネをせびられる青年、夫の家庭内暴力で死にかけた少女。
ずっと昔、大切な友人と互いの身の上を打ち明け合った日、「誰でもひとつはそういうものを抱えているよね」と話したことを思い出します。たとえ今、なんでもないような顔をして社会生活を送っていたとしても、壊れそうになったこと、深淵をのぞいた日、世界に自分はひとりぼっちだと思った夜が誰にでもあるんじゃないかと、ときどき思います。

自分はもうここから二度と抜け出せない、と感じるときもあるかもしれないのですけど、この物語を開くと、なんだか私は不思議と「大丈夫だよ」と言われたような気持ちになるのです。
世界にはまったく違う場所、まったく違う人、まだ私の前に開けていない世界があるのかもしれない。私の中の醜い感情も、人に手渡せない思い出も、ちゃんとどこかに置き場所があるのかもしれない。

こんなに幸せでいいのかな、と思います。
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