ゴールデンカムイ
」のレビュー

ゴールデンカムイ

野田サトル

亡霊と活劇と鎮魂歌

ネタバレ
2020年10月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 他の方のレビューでも指摘があるように、本作では女性や子供が「普通に」男性と同等の存在として描かれています。
特異な描写は、例えば以下のとおり。
(1)主人公を含む大人達が、北海道アイヌの少女に性的な目を向けない。
(2)10歳の北海道アイヌの少年が、家族となるべき存在を見出だし樺太に留まる。その意思が当たり前のように尊重される。
(3)女性を性的に消費する典型的なサービスショットがない。
(4)その代わりに、サウナや温泉で男性達が裸になる。
(5)ソリから転げ落ちる時には、男性のヒップラインにプリンという擬音が付く。
(6)男性の胸のボタンが弾け飛ぶ。
(7)上記の他、性的アピールは男性より発せられる。露悪的に。挑発的に。

本作については、アイヌ民族に対する敬意がよく注目されそうですが、私が個人的に驚いたのは、「幼い、可愛い、女性である」という三重苦を背負うアシリパに対し、主人公が最初から「さん」という敬称を用い、対等な人間として接している描写でした。いつものストレスから解放されて、読者がこれほど楽になるとは。
その中で、性的少数者に対する配慮が欠けている点は残念。
獣カンも不愉快。

さて。本作のストーリーは、一言で表すと「お宝探し」です。
おそらく北海道のどこかに隠されているアイヌの金塊。
24人の囚人の体に刺青で施された宝の地図。
地図を読み解く鍵を握るアイヌの少女。
主人公は金塊をアイヌの元に戻すべく、少女とともに命を懸けます。
金塊を狙い主人公らと対峙し、時に共闘するグループは、独立国家建設を目論む五稜郭の残党であったり、独自の軍事政権樹立を画策する二百三高地の生き残りであったり。。
書き出すとよく分かります。
この物語は、決して届かぬ夢を追い求める人間達を描く悲劇なのです。主人公、アシリパも例外でなく。
途方もない悲劇なのに、全編がギャグで彩られる。変態漫画と呼ばれる由縁のひとつでしょう。

最後に。
本作をお好きな方は、黒澤明の「隠し砦の三悪人」も楽しめると思います。何となく。
あわせてお薦め☆☆☆☆☆
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