このレビューはネタバレを含みます▼
椿、幹サン、天馬の3人の感情が渦巻く話ですが、物語は天馬が死んでしまったあとの「今」の中で進むため、天馬という人間・役者・恋人については「今」を生きる彼らの口から語られる言葉から想像するしかなく、そのため彼らの気持ちも乗っかって、読んでいる私は見たこともない天馬についてずっと思いを馳せていました。
驚くことに本当に最後になるまで私は「幹サンがんばれ!」だとか「椿かわいい」だとかを思うことができませんでした。それは、私すら天馬という存在に縛られていたからではないかと思います。
『遺作』、あの看板が出てきた瞬間、涙が止まりませんでした。
初めて本物の天馬を見るのに、今までもそうしてきたように椿が天馬に話しかけるから、心が勝手にしっくり来てしまって、ずっと私も天馬に会いたかったかのようにさせられたのです。頭の中に江國香織の『神様のボート』の本編いちばん最後のページが過りました。
私は漫画の専門家ではないのでよく分からないのですが、とにかくすべての絵が言葉が心に入り込んできて、感情を操作させられるような、感動するべくして感動したようなかんじです。紙の本も買って私が死ぬ時棺に入れたいです。