新装版 このたびは
」のレビュー

新装版 このたびは

えすとえむ

現在、過去、未来の自分へ

2021年9月13日
私が創作物に深く感動する要因は大きく分けて2つある。ひとつは、メッチャわかる〜!という共感。もうひとつは、何これ想像もつかなかった!という驚き。今作はどちらも当てはまらない。なぜなら今作は、「わかってくれた」と寄り添ってくれる作品なのだ。人間、生きていたら様々な悩みやモヤモヤや悲しみがある。とりたてて人に言うほどのことでもないけれど、確実に自分を蝕んでいるとわかる程度の痛みだ。ここにある数編の物語は、過去の己れであり、今日の己れだ。あなただけじゃないよ、と囁いてくれる。人は、自分だけじゃなかったと思えれば救いになることが往々にしてある。それで解決するわけではないが、自分に対する優しさに触れたようで、温かくなれて前を向けたりする。ただし、この作品に感動できるには、自分も他者に寄り添える存在でなければならない。あるいは、まだ己れを蝕む痛みに出会っていない幸せな方なのかもしれない。なら未来の自分にはこういう作品が必要となるかもしれない。
いいねしたユーザ4人
レビューをシェアしよう!