ほんとは好きだ
」のレビュー

ほんとは好きだ

ARUKU

恋は愚かなエゴだが恋した方が満ちる

ネタバレ
2021年9月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ ARUKU先生の指し示す愛の形が好きだ。とことん追い回しているその過程がたまらなく好きだ。そして今作は恋を濃密に描いてくださった。
恋は理屈なく唐突に落ち、抗えない思いに身を焦がす。好きで好きで辛くて痛くて、もう止めたいのにやっぱり好きで自分をコントロールできない。
そう、自分。恋とは自分の欲望だ。エゴが強いほど肥大に育つ。自分に酔いしれ、(北条のモノローグは恥ずかしいほど詩的だ)恋の対象に己が望みを請い、(笑ってくれないかな、俺のこと好きになってよ)情動をため込む。その思いの強さは恋がかなったとき、死んでもいいと思えるくらいだ。なのに、キスを目撃された時に取った行動はどうだ?死んでもいいと思えた相手がどうなるかの予測もできず、保身に回ったのはなぜだ?それは北条の恋が未成熟でエゴから脱却できなかったからだと思う。順調に育てば恋から愛に昇格していたであろうが、北条のエゴは思いのほか大き過ぎたのだろう。対して柾の恋は早熟で、キスが露見した頃にはすでに愛に変わっていたのではないか?恋は盲目で判断を狂わせる。柾が冷静に相手を思いやり自分が泥をかぶることができたのはそういうことだろう。柾が愛を育てることができたのは彼の生い立ちと性質による。北条が柾に与えたモノが柾にとっては愛に昇華し得るくらい大きく大切だったということだ。
さて10年後。柾は入れ墨・喫煙・多くのピアスといういでたちで北条の前に現れる。様子から今も北条のことは憎からず思っているようだ。が、10年の間彼に何が起こったのか?それを想像するのが楽しくて仕方がない。転げ落ちて自暴自棄になって複数人の男と居たのかもしれない。本当は神学校に行ってつつましく生きていたが、北条の思いを測る為にわざとそう見えるようにしてきたのかもしれない。
いずれにせよ読後まで楽しませてくださるなんて有難い事である。
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