薔薇色じゃない
」のレビュー

薔薇色じゃない

凪良ゆう/奈良千春

ストーリー重視の方に、どうぞ。

ネタバレ
2021年9月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 深い。重い。苦しい。しんどい。辛い。…読んでる間、ずっと感じてたことで。タイトルの「薔薇色じゃない」そう。本当にその通り。恋は、珊瑚礁のように淡く夢見る薔薇色であるかもしれないですが、人生や誰かと生きるということは、それだけではない。上手いこと言うなぁと、読後、つくづくそう思いました。
2人が同性でなければ話は違ったのかもしれません。25歳の誕生日の喧嘩は、もしかすると結婚のキッカケにすらなったのかもしれない。でも、阿久津さんは自分がゲイであることへの負い目がある。阿久津さんのバックグラウンドも考えると、どの道、2人の別れは避けられなかったように思います。阿久津さんの母親に対する罪悪感はいずれ何かの形で噴出し、水野さんに降りかかったでしょうし、仮に阿久津さんが自分の理由を全て水野さんに話たとして、水野さんが別れない覚悟を持てたかどうか…。
回り道をしなければ辿りつけなかった境地。2人にとって必要な別れであり、長い時間ではありましたが、必要な時間だったのではないかと思いました。綺麗事だけで、生きては行けない。リアルな心情が丁寧に描かれていただけに、読んでいて心が苦しかったです。小骨がずっと喉に挟まっている感じ…。取りたくても取れないもどかしさ…。
私はどちらかと言うと水野さんよりの考えだったので、たびたび阿久津さんに腹が立ちましたが、阿久津さんの〈分岐点〉の件には共感しました。私も同じことをよく考えます。どちらへ進もうかと。それだけに、アイスクリームを買い、九年前をやり直そうとした阿久津の発想の転換にはびっくりもしました。彼が変わった瞬間なのだろうと。
アイスを2人で食べるくだりは、本当に胸の支えがとれました。ずっと喧嘩してる2人を読んでいた感覚だったので、まるで自分が喧嘩した誰かと仲直り出来た気分で、心が軽くなりました。雪崩れ込むように体を重ねあったシーンは本当に甘くて。読んでる私も幸せでした。
最後「才」で水野さんから経緯の説明を聞いた久地くんの台詞が、この2人の真実なのだろうと思いました。嫌いであれば会わない方向に人は向かう。途切れなかった縁は、意識の底で互いにつないでいたかった縁である、と。本当にその通り。
回りに回って辿り着いた居場所。「どうぞお幸せに」と言いたいです。
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