恋ひうた~和泉式部 異聞
」のレビュー

恋ひうた~和泉式部 異聞

江平洋巳

もっと読みたいほど素敵な内容でした

ネタバレ
2021年10月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 全3巻、馥郁たる素晴らしい読後感でした。
平安時代を代表する歌人であり、中古三十六歌仙・女房三十六歌仙の一人和泉式部を題材とした読み応えのある作品でした。『和泉式部日記』からの抜粋を今は昔ほんの一瞬かじった程度で、恋多き才媛であり桂丸(後の小式部内侍→母である和泉式部と同じく一条天皇の中宮彰子に仕え、母と区別するために小式部と呼ばれた)の母君で謎多き魔性の女性という勝手なイメージしかありませんでしたが、本作を読んで考えが改まりました。幼少期から確固たる信念があり、秀でた和歌の才能に恵まれたが故に多くの殿方達を魅了してやまない情熱的な女性であったと。「浮かれ女」などと醜聞甚だしかった和泉式部の歌が、遥か後の世で学校教育に取り入れられるとは当時では考えられなかったでしょうね。名歌・名画・名作というものは、いつまでも永く愛され人を強く感動させる力を持っているのでしょう。

本作では夫橘道貞と弾正宮為尊親王との恋に焦点があてられておりましたが、もう一人帥宮敦道親王との恋愛についても触れて欲しかったなぁと名残惜しく思いました。やんごとなき方々との身分違いの恋は当時はタブーとされておりましたが、それがなかったら名歌の数々は世に出づることはなかったでしょうし、そういう意味ではよくぞダイブして下さりましたと気持ちです。

この時代を代表する清少納言や紫式部といったスターを輩出し、文学的にも大いに花開いた藤壺サロン。そこに和泉式部も奉仕して後世にまで残る名作の数々を生み出した女流作家達。千年以上も前の世界で、今とは全く違う生活様式・価値観の中で生きていた人々達。覗いてみたい世界への憧れは文献等で想像を働かせるしかありませんが、本作品のように想像を補ってくれたり、また違った解釈を与えてくれるような作品に出逢えた幸運に感謝です。絵柄も平安絵巻のように美しく何度も読み返したい素敵な作品です。
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