百草の裏庭
」のレビュー

百草の裏庭

青井秋

魂のひび割れを癒してくれる寓話。

ネタバレ
2022年3月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ Anno○//様のレビューに魅了され、手に取りました。
表紙からして幻想的。ブリティッシュフラワー模様も好みでした。
ギーゼルは森の魔物ですが、その外見とは裏腹に本を愛し清い心の持ち主。ある日、森で怪我をした少女とその兄であるマルセルと出会います。植物好きで感性の合うギーゼルとマルセルは、瞬く間に互いの心を味わうように親しくなっていきます。
読み進めていくうちに、突然。本当に突然に涙が溢れてきました。アハハ、何でしょうか。美しいお話を読むと心が浄化されたのでしょうか。吾妻先生の「親愛なるジーンへ」と同じ感動。遠慮なく浸りました。今の時代に少なくなった、無作法でない優雅な時の流れ。二人の生活が神々しく、まるで文字の多い大人の絵本を手にする恍惚感動。単純素朴に、ここで終了したら幸せなのに。でも、私の心に引っ掛かったギーゼルの言葉。読み終えた全ての本を又、最初から読むという、かっての彼の孤独。そう、マルセルは人間。人には寿命があります。マルセルを失ったギーゼルが、再び混沌の闇へと沈むのかと考えてしまった老婆心。
かって、ギーゼルに本の楽しみ、読み書きを教えてくれた、記憶も曖昧になった人はどこ?失う度、何百年とへて、再び己を恐れぬ者が現れるかという不安と苦しみに包まれてしまうのではと考える恐怖は残酷。にじみ出た私の涙の、本当の正体はギーゼルの気持ちと重なった涙だったのかもしれません。
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