あずみ
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あずみ

小山ゆう

長編アクション時代劇

2022年3月11日
日本の江戸時代初期が舞台。読んでて辛い痛い苦しい悲しい惨い。不幸のドン底からスタートするようなインパクトのある血で血を洗うスタートからこの極限の時代背景に馴染むことが出来てから本当の苦悩が始まるという人間ドラマを見せて貰える。争乱期が収束して新秩序に治まりつつある時代に最高の技術と知識を身につけたとされる美少女剣士の戦いと苦悩を描く作品。スピード感溢れる攻防を描く迫力ある戦闘シーンの描写と画力が魅力。師に命じられるままに枝打ちを続ける初期、自我が芽生えて刺客業の苦悩が始まる中期、007よろしく幕閣の意向を受けて調査対象国に潜伏して内情を探るという諜報部員の様な役割になり全権委任を受けて事件解決を目指す後期と大きく3部構成になっている。1部最終盤からは無双状態の少女が生きていては都合の悪い幕閣内の敵対勢力から付け狙われることになるがどんなに強引で老獪で狡猾で卑怯な手法を用いてもすべて返り討ちに遭わせてしまう。少女は心中に致命的な弱点を抱えている設定のため終盤は敵対勢力が積極的にこの弱味に突け込む策略を連続して仕掛けこれを撃退するというワンパターンになっている。新時代の秩序を強引に押し付ける幕府と順応し切れない外様大名や活躍の場を失った武辺者たちとの軋轢に敢然と立ち向かい最後は圧倒的な剣技で退けるというパターンが爽快感を与えてくれる。1611年の加藤清正、真田昌幸の暗殺から始まり1616年の徳川忠長の甲府拝領が最後のエピ。その後も1619年福島正則改易や1620年直江兼続逝去や同時代の剣豪柳生十兵衛など関わり合いを創れそうな人物は数多にいるが作者の創作意欲やアイディアが及ばなくなってしまったような終わり方になっている。人の出会いと関わり合いと別れという一連の人間関係を丁寧に印象深く練り上げる小山先生流の人間ドラマには含蓄深さと人の世の無情や痛ましさをまざまざと見せてくれる。
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