このレビューはネタバレを含みます▼
試し読みを読んで、主人公の三井のあまりのクズっぷりに、この男がどんなラストを迎えるのか、どうしても知りたくなりました。三井は、どうしようもないクズに私には映ったけれど、作者さんは愛情を持って描かれていた事が最後に分かります。
年収も出世も文句なしのエリート、妻子に恵まれて、完璧な普通の人生を送っていたはずの三井。それが妻からの離婚の申し出で、人生が転落します。ただ妻から三行半をされた夫だったなら、マシだったでしょうが、三井にとってそれはこれまでの人生を全否定されたものでした。三井は、ゲイの自分を認めず封印して、誰からも羨ましがられるはずの人生を選択していたからです。しかし、ソレは築けなかった。ここまで、なんとなく理解できます。そこから、高校時代、自分に告白してきた曽根=ゲイと隣人として再会し、自分の鬱積を曽根にぶつける日々が始まります。曽根がゲイであることを卑しめ、脅し、嗜虐的に接していく三井。それを受け入れる曽根。上下関係の様に見えて、そこには脅されてるだけでない、三井への想いやゲイゆえの関係性もある様で。狭いマイノリティの社会の中で、一緒にいられる相手と言うだけで特別になっていくのかなと感じます。ふわっと弱そうな曽根ですが、一度三井に暴力を振るう事があり、曽根は決して弱いゲイではなかったのです。この作品は、偽って生きていた三井が、自分を取り戻していく再生の物語で、ラストもまだその途中なのでしょう。三井を好きにはなりませんでしたが、作者さんの後書きの気持ちは、とても沁みました。オススメしたい良い作品です。