マッケンジーの山
」のレビュー

マッケンジーの山

リンダ・ハワード/高木晶子

彼らを守ろうとする主人公の奮闘はぶれない

2022年7月29日
町の皆が嫌悪する人は、皆が思っているような人ではない。ヒロインは評判に惑わされなかった。そして彼自身が人々の不信感の元となっている過去を語っても、彼女は何らかの事情の存在を察した。

一人優秀な生徒がいるはずなのに、その不在を問題視したのはヒロインだけだった。その生徒が誰であろうと出自に関わりなく当人の未来について、彼女は純粋に一個の前途ある若者のことと考え行動した。しかも、向き合った会話中に、彼の進路希望を掴んで応援を始めた。統一して決めてかかって見ずに一人一人を見ている素晴らしさ。

本書は、今やネイティブ・アメリカンと呼ばれる人の呼称を、30年以上昔のもので通している。
ネイティブとは、元からその地に暮らす民、本書では北米「先」住民族ということ。
しかしである。
白人社会は歴史的にどう考えて如何ように遇して来たか、それが如実に表れているストーリーだ。過去、居留区に大半は住まわされたが、本書のように、多数ではないが、白人社会のほうに接点を持つ人もいた。
どこの国でも、世界史を見渡せば、長年住んだ土地を奪われる経緯を過去に抱え、新参者と土着民との両者の対立が胸痛む憎しみの構図があるし、いつの間にか入植者のほうが追われた者よりパワーを持っている。
本作はそっちよりも、ウルフとジョー親子が新参者として白人社会主流の地域に(黒人白人の別はしていない。明確な配置のために、古くから形成されてきた社会である状況だけが、本書には必要だった。)、かつ、白人社会から見て元来忌み嫌う対象又は無視したいが最大限警戒もする対象として、というよそ者と民族問題、という、二重のテーマを与えている。
地域社会の人々は頑固で疑り深く、親子をどこまでも汚らわしい存在であるかのように、徹底的に疎外する悲しさ。過去のいきさつが十分に説明されておらずに、偏見や先入観が10年以上もはびこる厄介さ。ウルフがかわいそうでかわいそうで。ジョーもだ。はたで読んで辛い。悲しみ一杯になる。

HQお得意のヒロイン自ら危険に飛び込む。性的表現が何頁おきに出てきて多すぎる印象。94%箇所「今度は俺が彼女をしめ殺してやる」が不明。

HQらしく汚名を雪ぐ安心を与えてもらえる。解放感のエピローグがサッパリと抜けるように明るい。大空を駆ける光景が眼に浮かぶ。住民達から受けた非身体的暴力によって傷された歳月、時間を取戻せないのがやりきれない。
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