上海金魚
」のレビュー

上海金魚

かわい有美子

恋愛映画のようにロマンティック

ネタバレ
2022年8月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 描写が美しく繊細で、耳を澄ませば異国の喧騒が聞こえ、美味しそうな料理の匂いが漂い、運河に柳が揺れる幻想的な風景が脳裏に映し出されるようでした。タイトル通り物語の大半は上海が舞台で、短い数日間の出来事です。異郷の地を巡りながら登場人物の心情が移り変わっていくのと同時に、だんだんと2人の距離も近づき惹かれあっていくさまは、夢の中のようなゆったりとした空気を感じました。異国で見た夢は日常に戻ることで覚めるかと思われますが、上海での美しいひとときは2人の胸に余韻を残し続け、静かに恋情は育っていきます。
登場人物の設定が緻密で、特に主人公の水端は奥が深く魅力的でした。元々の繊細で感受性の強い気質に加えて、自らの性的指向を否定されることへの怯えからより臆病で潔癖になっていた水端は、いつもどこか警戒感を抱いていて、自分の生活を守るように保守的に生きていた印象があります。その固く凝った心を、自由奔放な滝乃がその器の広さを持ってゆっくりとほぐしていくストーリーは何とも感傷的でロマンティックでした。眼鏡を外すと美人だったり、一度は別れた2人が運命的に再会を果たしたりするところは、現実感がなくまるで少女漫画のようですが、全体的に漂うドリーミーな雰囲気にぴったり合っていると思います。
水端は恋に一途で感覚的というか乙女っぽいところがあり、モノガミーとポリガミーという恋愛価値観の違いから付き合っていた伊藤に裏切られ傷つけられます。植物的な印象の下に潜む愛情深い気質こそが水端の人間味で、それが彼の時たま滲み出る色香なのかもしれないと思いました。滝乃は掴みどころがなく時にはドライな人物ですが、ロマンチストで愛に満ちた一面もあるので、水端を甘やかして可愛がって、天涯孤独の彼の大切な存在になってほしいと思います。
普段あまり読まないタイプの乙女チックなBLですが、情景や心情が美しく描かれていて感慨深かったです。
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