このレビューはネタバレを含みます▼
この物語は、コレットという一人の人間の少女が、人間として生き抜いた物語である。
舞台はギリシャ神話をベースにしたファンタジー世界。世界には人間がおり、そして神々もまた存在した。普段は決して交わらぬ二つの世界だが、井戸を通じることで人間もまた神々の世界に足を踏み入れることができるのである。ただし、井戸を通じて行けるのは地下にあるとされる冥府に限ってであるが……
薬師のコレットは日々の仕事に追われ、心身ともに疲弊し現世に嫌気がさしてしまい、ふと井戸の向こう側に冥府が繋がっているという迷信に心惑わされて、咄嗟に井戸に転がり落ちてしまう。彼女が正気を取り戻したとき井戸の底に広がっていたのは冥府の世界であった。そこに住まうのは冥府を管理する妖精のようなガイコツたちと、冥府を統べる冥府神ハデス。日々の勤めに疲弊して体調を崩したハデスを薬師の力で治療することになったコレットは、これまでよく知らなかった神々の世界のこと、人間の世界のことを学び始める。
神とは何か、人間とは何か、世界とは、そして生死とは何かといったことを、様々な出来事を通じて触れ、体験し、学習して理解し、残していくこと、伝えていくことこそ、この物語の神髄であると思う。
人間と神々は違う存在である。神々は不老不死だが人間は老いてやがては死に至る。それでも、互いに交流することで絆が育まれ、そしてそれがやがては大きなものとして形作られて残ることに、心温まる要素があるのだ。
この作品はそのような感動を私に与えてくれた。