このレビューはネタバレを含みます▼
サカイワ製薬のMR である押尾は食い道楽で社内では外食番長と言われている。美味しいお店や新店舗など、自腹で開拓した情報で頑張ってはいるけれど、外資の競合他社・フェルマーに押尾以上に詳しいMR がいて押尾的には負け越している状態。
豪雪の中、代打で薬を届けに行った帰り道、雪で動かなくなった車内に人がいるのを見付け、咄嗟に助け出した押尾。助けた男性とは互いの素性など明かさず、二度と会うこともないと思ったら押尾の東京支社への壮行会に「あのとき、助けていただいた鶴です」と言って現れたのがフェルマーのMR・佐藤だった。
その後、佐藤も東京に異動となり、ライバル会社という垣根を越えて一緒に食事に行くようになる。給料の4割を食事に費やす食い道楽な押尾に付き合える同僚は少なく、佐藤と楽しい時間を過ごしていく。
佐藤と押尾の関係がライバルから食友になり、恋愛関係になっていく様子を見せるだけでなく、ライバル会社との合併やそれに伴う社内の混乱や疑心暗鬼、合併を決断したサカイワ製薬社長の苦悩など、一冊の中に様々な要素が絡み合っているのに取っ散らかったりせず、佐藤と押尾の恋愛をしっかり描いているのが凄い。
医師たちから《ナルちゃん》と呼ばれ、まるでコンシェルジュのように要望を叶える佐藤が押尾のピンチにさりげなく助け船を出したり、佐藤の気遣いや優しさを押尾がきちんと気付いて感謝を忘れなかったり、二人の人間的な器の大きさを感じられ、読むほどに愛しさが込み上げる作品。