棘の王様
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棘の王様

小石川あお

美しい毒、美しい棘

ネタバレ
2022年9月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 高校生 絢の義理の父の不可解な死と母親の失踪、遺産を巡るミステリー仕立ての作品。「町で一番美しいホステスが失踪した。そして その息子は母親より美しい姿をしていた」言葉に偽りなく美しい… その存在だけで人の心を高揚させ、支配する。しかし本人は無自覚の小悪魔だから厄介で、一緒に母親を探す怪しい男 黒田も翻弄されてしまう。母親は魔性の女と言われ「周りの男が身を滅ぼす」と噂の華だが、真相は皆 絢の魅力に取り憑かれて… あぁ もう美しいって罪深い 。「無意識の媚態」とは上手い表現。天性のモノとは別に そんな絢を造ったのは、根底にある母親からの愛情の渇望と、流動的な環境下で周りの大人に取り入って可愛がって貰わなくちゃという処世術が影響している様で少し哀れに感じてしまう。一方で 義父との仲や黒田に惹かれる様子を見ると、父性への憧れがあったのかなと。下巻では絢の過去に纏わる母子と黒田の関係、遺産の行方、死の真相等、そう言う事?!となる伏線の回収が見事です。読み返すと黒田の言葉や視線、絢の断片的な記憶全てが意味を持っていて上手いな~と思うと同時に、黒田の深層心理が少し怖い。黒田に心を丸裸にされた絢は涙を流して抵抗していたのに「俺を全部くれてやる」と言われると「絶対服従?」としな垂れ 人差し指で額を突き、まるで「支配」の魔法をかける様に黒田を呑み込む。魔性… 嗚呼 これは敵わない。小悪魔が魔性に昇天した瞬間を見た気分です。黒田が絢と結ばれて流した涙、それ以降(短編も含めて)の眼差しに絢への想いが溢れていて胸がいっぱいになりました。エロは少ないのに、こんなにエロスを感じるのは「絢」という媚薬に酔わされているからでしょうか… お手伝いさんのいい仕事ぶり、屋敷での不可解な事故の真相を黒田が見事に体現するサマに拍手、最後まで抜かり無しです。その他 短編が2話あります。「放課後の道化師」は絢の親友 千秋と保健教師の恋。「棘の王子様」は絢の新しい家族と20年後くらい?の後日談。本編、単話全て余韻を残す素敵なラストで読み終わりがとても良いです。 初読み作家さんですが、人間の内に秘めた心理や推察を描くのに長けた方ですね。そして何より美しく儚いモノの表現が素晴らしい。きっと何度も読み返すだろうな。大好きな作品です!※登場人物の女性達があまり可愛くないのは腐読者への心遣いでしょうか?😊
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