紛争でしたら八田まで
」のレビュー

紛争でしたら八田まで

田素弘

ジオポリティカルな問題を痛快に解く面白さ

2022年10月10日
シーモア島で紹介されていた書籍。
本書内では地理的な宿命と国家の葛藤、との表現がなされて、ピッタリだと思った。
民族問題、宗教問題、自治や独立、統一や融和。領土問題、地域紛争、縄張り抗争、どのような言葉であろうと、そこにある憎しみや対立の構図には絡み合ったバックグラウンドがあり、争い事の根源への分析が必要。主人公八田のような解決請負人は、深い歴史的しがらみや両サイドの損得計算と、最新の国際情勢への情報収集が大事。一方的に相手の利得を封じるだけの解決は難しい。コンサルだ、チセイ(知性)をつかう、とか言いながらも、プロレス技頻発がどうも私の理解を越えているが、格闘シーンではパフォーマンスとして見た目にアピールし易いのだとは理解する。
文化や言語や居住の接点は交流の場なのだが、一触即発の発火点にもなりうる。交通の要所は、防衛線の要衝。分断や衝突に相談が持ち込まれ仲介や調整に知恵を絞る。地勢も資金の加勢も両者の立脚地点が変わってくる中で、軍事的戦略的思考も駆使。火器の知識や瞬時の状況把握、依頼人や対象先に接触するときの注意力は探偵のような推理力まで。こうした能力を発揮するスーパーウーマンが主人公。本質は社会の矛盾だったり、抑圧された人々の不満だったり、不当に搾取された側の報復だったりする。身体を張って本質に切り込むのがカッコいいが、上司との謎な感じ、親のことを身内とも異なる見方を持っていたりと、八田サンの人物像にも伏線的なものが用意されている。
言葉の問題をイージーに乗り越えさせていて、各民族の言葉が(スラング等お上品とは言えないものまでも)飛び交い、理解を深めるミニ情報だったりする。各地域の飲食物の紹介は度々息抜きになるし、重要な場面にすら小道具に出てくる。作者の感性が現れているのかもしれないが、ローカルな料理を扱っていて食いしん坊の私には良かった。
2,3巻にウクライナの2020年頃の時勢が織り込まれている。まさになかなかキナ臭い地域をせめていて、各編共ストーリーがいいところを衝いている。だから、グローバルに世界中の燻り続ける紛争地域への俯瞰が出来て、第二次大戦戦前から含め現代史の中で注視の要る着眼点を知らせてくれる。国際政治情勢への私の好奇心を刺激する。
領土的野心を持った族のレディースの話は、想像難しい。
14巻東西南北に独特の関与に魅了。15巻読了、ギリシャ料理食べたくなった。
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