半分あげる【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】
有馬嵐
このレビューはネタバレを含みます▼
作家さんの画力については、今更述べる必要はないでしょう。登場人物の表情の書き分けが素晴らしいです。特に白木くんの泣いているような笑い顔に、心がもっていかれます。その上、作家さんは風景が如何に近代文学にとって大切か、良く理解しています。物語における風景には、登場人物の心情を投影することができます。そしてそれを見事に実行されている。デジタル版には、白木くんと黒川くんが明け方の海を背景に手を繋いで歩く絵が、最終ページに上がっていて胸を打ちます。上げてくれてありがとうございます!この絵一枚が、ほぼ作品の全てを語っています。作家さんは絵で物語れる、素晴らしい才能をお持ちです。人物の設定も細やかにされていらっしゃるし、物語の構成も非の打ち所がない。第一話の展開は、ほぼ神なのでは。ただ一つ苦言を申し上げるなら、全てのマンガのエレメントがほぼ完成されていながら、ストーリーの終わり方に不自然なものを感じます。起承転結、序破急、何でもいいのですが、結末が消化されていない。ページ数の関係かとも思われますが。白木くんがprostitutionを強要されていたと言うショッキングな設定ですから、そこから這い上がった彼の精神的彷徨や逡巡をもっと見せた方が良かったのかも?それによってフィクションにリアリティーが加味されるのでは?BLはハピエンにしないと売れないのかな?とも思いますが、それならそれで、白木くんが過去のトラウマから、這い上がった説得力のあるエピソードなり、何かを入れていただけると、よりわかりやすかったかもしれません。「半分あげる」というテーマも素晴らしい。人を感動させるテーマです。(私は感動しました。)作者さんの高いintelligenceを感じます。ただ、深淵なテーマなので、第6話だけで、説明するのは難しかったかもしれません。設定も、テーマも壮大なので、多分、たった6話では詰め込みすぎないと終わらなかったのかな?とも考えてしまいました。でも、全てが完璧に収まっているところに、作家さんの実力を感じます。お若い作家さんのようで、今後ますます伸びていかれる方だと思います。作家さんの可能性に胸をときめかせています。それで少々厳しいレビューになってしまいましたが、更なる飛躍を期待している故の事と、許してくださいね。
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