ピットスポルム 合冊版
」のレビュー

ピットスポルム 合冊版

三上志乃

とても繊細な物語

ネタバレ
2023年2月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ 苑×矢野、高校生2人のお話。
男性に抱かれている父親を見てしまった小学生の苑は、母親を安心させる為に男子校から私立中高一貫の共学へ転校。女子を抱ける自分を安堵し、父親とは違う事を母親にも自分自身にも証明し続けていた苑。そんな彼の中学からの学生生活は、とても孤独なんだろうなと思いました。

矢野くんは高校からの外部生。ゆとりある家庭というよりは、奨学生として苑のいる学校に入学した努力家。家族との電話の後一人泣く矢野くん。家の経済状況を記したメモから、矢野くん自身が無理を言ってこの学校に進学したいと両親にお願いしたのかな?と思いました。
読みながら思い出したのが、幼稚園からある私立一貫校。3年程前の学校も何もかもが自宅待機になった時、その高校の学生達で流行ったのがジムでした。どこどこのジムは良いよ…と。(もう堤防とかそのへん走らないんですね😩)そんな学生達と机を並べているのかな?と想像した矢野くんの学生生活は、学年2位の成績をキープ…毎日自分で作ったおにぎりで食費を節約。皆んなと違うその苦労は奨学生だからと全てを払ってもらう訳ではなく、入学してから初めて知ったその他の支払いの多さに、驚いたんだろうなと。そんなお兄ちゃん(矢野くん)は親に愚痴る事も甘える事もなく、親も分かっているけどできる事は食品を送る事だけ。この辺りの矢野くんの心理描写が高校生らしく可愛いなと感じて、良かったです。

そんな矢野くんの涙を見てしまった苑。いつからか抱く女子学生の顔が矢野くんになってしまった。その時の彼の葛藤、その描写が繊細で良かった。何度殺しても押し殺せない気持ち…が男子高校生らしくて良かった。そして矢野くんが苑への気持ちは友情じゃないと、少しずつ確信していく描写も良かった。苑がいない事に寂しさを覚えまた仲良くしたいと思い、彼を幸せにしたいという様な矢野くんの表情が良かった。苑のいる謹慎室に飛び込んできた矢野くんのコマを見て、目頭熱くなりました。

幸せにしたいと思った方が受けなんでしょうかね?
苑だけが見た矢野くんの涙と、矢野くんだけが知った苑の孤独(尊い)。その繊細な心理描写が思春期の男子らしく…親、家族を想い自身の人生を歩み出す過程が苦しみに満ちている…その尊さ。あぁ、こんな感情もあったなと。そんな宝物の様な感情を久し振りに思い出した物語でした。純粋でした。
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