このレビューはネタバレを含みます▼
混沌とした時代に翻弄されるふたりが痛々しく切ない、しかしそれ以上に美しいと感じるストーリーだった。偶然出会ったパーティー会場で、ロバートのエロティックな視線に絡め取られるように惹かれていくエリオット。逢瀬を重ねる二人の、甘美な時間に流れる得体のしれない不穏さは、読んでいるこちら側の気持ちをザワつかせ、先に起こるであろう困難を予感させるに十分すぎて…。そして、幼馴染みだった二人の出会いと別れ、ロバートになる前のリンチェの生き様にも胸が苦しくなった。おぞましさも悲しみも、自分を生かすために必要なものだとすれば、こんなに辛いことはない。幼い二人の思い出がリンチェを支えていたとするならば尚更…。後半の、薄氷を履むような逃避行にも時代の暗さが影を落とし、心底二人の幸せを願わずにはいられなかった。お互いを想い犯した罪が今後足枷になろうとも、二人の選んだ未来に後悔はないんだろうな…。幸福を手に入れるのは簡単ではないし、笑顔で手を取り合って終わりではない。これからの二人をもっと知りたい、と思う素晴らしいハッピーエンドだった。色気のある絵も心理描写も重みのあるストーリー構成も秀逸。セールまで待たなくても後悔しない作品かと…!