このレビューはネタバレを含みます▼
序盤は入江(攻め)の気持ちに答えられない深水(受け)の思いとか、入江(好きなのに気持ちを抑えている人)と深水(好かれているのは知っているけど、相手の気持の重みを正確に把握できていない人)のやり取りをけっこうおもしろく読めたのだけれど、入江の思いにこたえられないからと、入江から離れようとした深水を必死で入江がひきとめたあたり以降ぐらいから、深水が入江とのことで迷ったりする心情や、深水や入江の家族との話とか、丁寧に盛り込まれてるのはわかるんだけれどいまいちはまりこめなかった。
好意は持っているけれど恋愛感情は抱けない相手に恋されて、一緒にいることにある種の居心地のよさを感じているような状態って、すごく残酷で魅惑的。嫌いではない相手に好きと言われるのは快感だ、たとえ同じように好きとはなれなくても。深水は一応悩んだり迷ったりしてるし、相手の好意を利用しようとはしなかっただけ大したもんだとか思った。私ならどっぷりぬるま湯につかって楽しんでしまうと思う、最低なんで。
ただ深水に関してはちょっと安易に薬飲みすぎ。薬を飲んで眠った状態じゃないと入江と行為にいたることができないという気持ちでいた深水が、最終的に本気で入江を好きになるまでの気持ちの変化を、なんとか盛り上げて描写するために強引に薬のエピソードが入れられたように感じた。
お話の流れとしては、切なく辛いやり取りを乗り越えた先に二人の甘々な生活が待っているので、読んでてほっこり幸せな気分になるのが正解なんだろうけれど、私の気持ちはどこかこの甘やかな状態を冷静に見てしまって、終盤の甘やかさにときめくこともなく、心は波の立たない瀬戸内海のように平坦なままだった。序盤は5月の日本海ぐらいには波が立ってたけど。切ない、辛い気持ちや、甘いときめきが丁寧に書かれているんだろうなとは思ったし、読みやすい文章で、会話に芝居臭さがなくて自然な感じがしたのはよかった。(眇める)(ゴミの収集日と降水確率)