この手を離さないで【単行本版】
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この手を離さないで【単行本版】

咲本﨑

本当に素晴らしい作品です。大大満足です。

ネタバレ
2023年7月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最高でした。こんなに泣いたの久しぶりです。
一巻を数ヶ月前に購入し、感動して、あ!続編があるのか!と楽しみにしながら、しばらく本棚に眠っていたのですが、先日、新刊通知でハッと読み返し、また泣いてしまいました。
雅の心情がとても丁寧に描写されており、繊細な世界観に心から没頭できます。私が特に感心したのがカレーの描写。
幼少期の雅にだけ配られなかった、食卓のカレー。αである父と弟にのみカツが乗っていて、母にはカツがのっていないことから、家庭内(父親の)差別主義が強く印象付きます。
母もΩであるせいで虐げられ、弟がαだったおかげで、やっと食事を与えられているのではないかと想像でき、雅を救える人間が幼少期の純粋な弟以外、誰もいなかったのだろうと、描かれていないシーンまで質感高く感じ取れます。
そして、一条と出会って、暖かさを知り、好きな食べ物はカレーだ、と答えるシーンでは、胸がギュッとなりました。
雅がメンヘラのように見えるというコメントを見かけましたが、私の意見は違います。雅はメンヘラで当たり前です。親から最初に与えられるはずの愛情を与えられなかったのだから。
だから、一巻で雅は親の愛を得るために完璧になろうと、Ωの自分を極限まで忌み嫌い、捨てようとしていました。
けれど、一条と出会い、無条件の愛を知り、家族の愛を知り、親への執着を手放して、一条と2人、生きていく決意をするんです。うまく笑っていても、勉強ができていても、雅の経験値は小学生にも満たないはず。初期の箸やフォーク、スプーンの持ち方が物語っています。
そんな中で、一条から与えられる愛に応えたいと、自分を囲う一条に反発し、自分が正しいのかも分からず不安なまま、もがく姿が二巻なのではないでしょうか。
素晴らしい心理描写だと思います。

だいぶ語ってしまいましたが、キャラメイクも凄いです。
一条も雅も、魅力的な容姿と、案外なんでもできそうに見えて、実は歪な人間性、完璧に描き切らないところに、話を奥深くする工夫が感じ取れます。

応援しています。
三巻も思うまま、自由に描いてみていただきたいです。
どんな形になろうとも、最後まで雅と一条を見守りたいと思っています。
こんな素敵な作品をありがとう。
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