派手さは無いが心に沁みる、上質なBL小噺集





2023年7月15日
秀先生の作品は大好きですが、地味そうな内容だな~と手が出ないまま。凄~くお安くなったら… と待ち続け、少し前の値引き&クーポンでやっとポチリ。「金魚すくい」怠け者 与平と貧乏神のお話。ヒモが働かせるのか、働き者がヒモにするのか… 金魚は腹の足しにもならないけれど、初めて貰う贈り物に貧乏神は嬉しくてこそばゆくて、一時の頑張る原動力になったのね。あ~ 無自覚の人たらしってズルイ!貧乏神も歴代の女房と同様に愛想を尽かして出て行ったと思っていたけれど、読み進めるとどうやら違っていた様で。情の深さが心に沁みる… あの時代の金魚鉢は高価な代物に違いないのに、一匹残った金魚の為に金を遣う所が与平らしい。薬代に充てていたら、もう少し往生出来ただろうに… 直接的でない金魚の使い方が秀逸で、空っぽになった金魚鉢に一層の侘しさを感じずにはいられない。ラストの膝枕のシーンは切なさと同時に温もりも感じられて「お礼が言えて良かったね」「独りぼっちじゃなくて良かったね」と、2人にとって最良の最期だと思いました。秀先生の優しさに触れられた気分です。「デラシネの花」長寿を祈願してつけた名前の寿限無が本当に長生きして現代に… しかもホスト!から始まるお話。もうここで膝ポンですw うろ覚えですが元ネタの落語と「金魚すくい」の死神(貧乏神)を絡めてよくぞBLに昇華させたなぁと、唸るばかりの仕上がりです。取り残されるのも想い人のお迎えをするのも寂しく虚しいもので、そこに慣れなんか無いのよね。立場は違えど果てしない長尺で生きる者同士、2人しか分かり得ないものがある。言葉数は少ないけれど情があって押しに弱くて、ファッションやら食べ物やら ちゃんと現代に馴染んでいる姿に 何とも人間味のある死神だなぁとフフッとなる。描き下ろしの少しずつ家にモノが増えていくの良いですよね。願わくば、寿限無なりの想いを込めた名前を付けてあげて欲しい。そして寿限無の前にあの着物姿で立つ事が有りません様に…「小向家の事情」今のご時世、あるよねと思わせるお話。ちょっと複雑な家庭環境と気付きの瞬間を絡め少年が成長する過程をとても上手い構成で描いています。透明人間にならなくても良い時代が来る事を願って止みません。ラストの「ざまぁ」と思える図太いメンタルに育って何より。今度はお父さんが受け入れる番ね!10年前の作品ですが、上質なものは色褪せないと実感する名作でした✨

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