このレビューはネタバレを含みます▼
天体モチーフの登場人物の名前と、自分の名前にちなんだ太陽のシールをスケジュール帳に貼るという主人公、陽の習慣。また収納アドバイザーという彼女の職業が、あまりにもあからさまなエピソードから幕開けする、この生々しく重くなりがちな話に対して、見事な抜け感や爽快感を作り出していて、そのバランス感覚が素晴らしかった。
その名前の設定は、後半になってからも展開に絡んできます。
弱い人は、自分の内に渦巻いているコンプレックスや葛藤を己ひとりでは抱えきれず、(多くの場合は自分にそれを感じさせる)他者に投げつけることで、一方的な解消を図ろうとする。星のしていることはまさしくそうだし、木もまた、感じた(煽られた)不安や葛藤を、星に(誘導的にであれ)受け入れられることで、一時的な解消を図ろうとしたのだろう。
それは、紛うことなき弱さでしかない。
しかしこの作者は、終始ずれている男のそういった弱さを、アイスクリームを差し出してくるというとぼけた行為で相殺して、見事に主人公にとっての「特別」に仕立ててしまう。
そのバランス感覚が、やはり素晴らしいのです。
弱さを抱えない人間などいない。主人公である陽もまた、葛藤し、のたうちまわります。自分の目の前で起こった出来事と、そこで湧き上がってきた感情と、「そうあらねばならない」姿の、そのあまりの落差について。
しかし、この期に及んで、最後まで自分の不安や苦痛を陽に委ねることしかできなかった木に対し、彼女のとった決断は、己の葛藤や感情に嘘をつかない、実にきっぱりとした、清々しいものでした。
お互いのために「はじめない」。
終始自分の感情でいっぱいだった木が、やっとその選択肢に気づいて受け入れたとき、だから陽は、泣きながら満面の笑みで笑う。
地獄の結婚式を経て、離婚届を受け取る場面になってやっと二人の気持ちが通い合うというような、捻りまくった名シーンです。
思えば陽は、自分が妊娠した日にも、入籍した日にもシールをつけていた。
予期せぬ現実の出来事にも、自分なりに答えを出しながら進んでいける人で、だから星は、木は、住谷くんも、そんな陽が、まぶしくて仕方ないんだろう。
陽にとっちゃ「はじまらない」結婚にもシールがつけられる。
皮肉なようでいて切実で、生臭いようでいてロマンティック、人の弱さをばかにするでなく包み込む、そんなたくましく愛情深い主人公のお話。