天然コケッコー
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天然コケッコー

くらもちふさこ

語りすぎないのに語る饒舌な絵を見ながら

2023年9月16日
省きの美学。センスのいいコマ割り。白黒で圧倒的に描きたいものに迫ってる表現力。
カラー絵も素晴らしいことは、原画鑑賞の機会に知っているが、実は長いこと、くらもち先生は白黒が抜群に上手いと思って、カラー頁よりもずっと高く注目していた。

線の使い分けが素晴らしくて、田舎のいろいろなディテイルにも、ただの写生には現れない「雰囲気」の統一感を感じる。木村、木中、若干都会化?してる森町とのニュアンスの違い、自然の中での日々。
モデルはあるとは言っても、設定された村の事が、この漫画家の手にかかると、その村を漫画空間に造ってくれてる感じがするのだ。

此は一種の郷愁を利用して人の心を、原点に返らせる作品だと思う。清らかとか純朴とか、そんな小綺麗な形容で済まされない、そういう環境で出来上がる人間関係だったり、大人の事情だったり、子ども達のルール無用の世界だったりが、ハタから田舎を見る人間の都合のよい視点などではなく、中に居る者達が感じ、考え、動いてる、そんな様子を細やかなタッチで描写、中に入り込ませるように誘ってくる作品。廃校を危ぶまれる学校の存在と、在校生より大人の方が多いという、子ども達を巡る環境そのものへの、何処か喪われていく田舎らしさをダフらせて読める作品。

その日常生活、時々事件(と言っても他愛のない)が起こって揺らぐこともある小社会、古い共同体、所謂田舎臭さのその中になんとかいいもの、いいところ、を掘り出そうとする取り出し方、見せ方が、やっぱり卓越している。やはりくらもち先生が別格に居る。
作者の勝負所は、小手先の読者振り回し展開のストーリーなどではなく、いわば、1番題材にしにくい所をわざわざ狙って漫画にしている印象すらある。
しかしその挑戦が、キチンと色を出せていて、言葉の工夫、角度の工夫、何をそこに持ってくるかの工夫、全てになっている。

全て説明が欲しいタイプは読み辛い所もあるかもしれない。そこが凄い点であるのに、その上手い幕の引き方を、物足りないと感じてしまう人が世の中に居るので。
いや、語ってますし想像も出来ますし考えたら繋がるでしょ、というようなことを、全部作者に語らせたら、唇寒しなので、これはこれで丁度いいと、私は感じる。「めでたしめでたし」で終わる話が欲しい人はそういうジャンルのほうで満足して、というか。

漫画でしか表現出来ない方法で挑んでいる。
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