色悪作家と校正者の多情
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色悪作家と校正者の多情

菅野彰/麻々原絵里依

文学作品を読み返したくなるシリーズ

ネタバレ
2024年3月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 毎回正祐がこんなに恋愛方面に稚いと大吾は色々と大変だろうなと見ておりましたが、冬嶺女史のあまりの男親っぷりと完膚なきまでに叩きのめされた様を見て、「ああ、このくらいがちょうど良い塩梅なのだな」とひどくしっくり落ち着きました。
ラストシーンは、大きな男の子である大吾の自尊心を、意図せず取り戻させる正祐の色気に当てられ、楽しく読ませていただきました。正祐の語り口調が美しくて、読んでいて滾るので、レビューも影響を受けてしまいます(笑)。閨を共にするのに自尊心が必要な大吾と、愛情だけが必要な正祐。正祐視点で描くことで大吾があまりに不憫で、“お可愛らしくて”本当に面白かった。2人は異なる存在で、異なるからこそ痛みは言葉で伝え合う必要があるし、共にある意味もあるのだろうと、繋がれる手の描写にしみじみ感じ入りました。
そしてこのシリーズは、時に文学語りがお気に召さないレビューをお見受けしますが、私にとっては文学作品を読みたくなるシリーズです。私自身は文学好きだった若かりし頃からだいぶ経ってしまいましたが、昔読み漁った森鴎外や太宰治、井原西鶴などなど、お里が知れる読書遍歴と重なる作品はもちろん、懐かしい絵本や、恥ずかしながら未読の名作まで、様々な作品に対する深い考察を拝読できて興味深いです。それらの作品を読み返したり、初めて読んでみるきっかけを作ってくれる大好きなシリーズです。
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