かつて夫婦だった恋人たちへ
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かつて夫婦だった恋人たちへ

ななしなあめ子/工藤あい

いみじくも全ては不正解。

ネタバレ
2024年3月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 登場人物で誰が「まとも」かと言えばそれは。
主人公・すずのモラハラ気味の元旦那の新しい彼女、英里さんだけだと思う。唯一彼女だけ。すずは恋人の宗一の元妻からネチネチと執着されるが、その愚痴を宗一では無く、元旦那を呼び出しては「相談」という名の逢瀬を重ねる。英里さんに「自分がされて嫌な事、人には簡単にするんですね。」(それな!)言われてやっと。元旦那に合わない決心をする。頭のゆるさったら無い。宗一の元妻は、浮気相手にすら捨てられそうなので、宗一に粘着する。大体、つまらないプライドだけなのだ。そしてそれはすずにも伝播したんだろう。すずは宗一を愛しているのでは無い。「実奈子さんの思う壺じゃないか」と、最期には元妻への意地だけになっているのだ。夫を「勝ち取った」つもりでいる哀れなすず。引っ掻き回すだけ引っかけ回した実奈子は娘を連れてわざわざ「二度と会わない」宣言をしに来ては去る。元妻をけし掛けては、すずに嫌がらせをする小姑の一楓は姪の果音が可哀想だと言う割には、自分では何もしない。自分の子供が出来たら人に嫌がらせをする暇も無くなりそうなので、それまでの我慢か。一楓は、すずがささやかな結婚の用意をしているのを「果音の為にお金を使えばいいのに」などと思ってすずを疎ましく思っているが、自分はたったの1円だって果音の為に使おうとしていない。兄である宗一に果音の為に金を払えと迫る事もしない。ただ新しい彼女を憎み、嫌う。兄である宗一や母親とはまともに向き合わないのに他者に対するこの刺々しさの違和感。兄の閨を覗き見して実奈子に送る下世話さ。(見たいか?)
絵は宗一の優男さや実奈子の不倫相手など、男性はやわで優しげに描かれているが、女性達の眼の不安定さが不穏さを醸す。まるで瞳孔が開きっぱなしの様に虚ろなのだ。
虚ろな眼をした彼女達は、虚ろな気持ちのまま、何となく。何となく手に入れた男に縋り付く。娘の果音を守ろうと取り敢えず決めた実奈子だけが清々しく去った様に見えるが、彼女もまた虚ろな眼をしている。実奈子が去った事で、一楓も虚ろになっている。彼女もまた、「可愛がっていた」と信じている姪の果音と二度と会えなくなったのだ。宗一は親権を取ろうともせず、ただ娘に会いたがるんだろう。
すずに子供が出来る兆しで終わって欲しかったな。
手のひらに何も残らない結末は何て虚しいんだろう。
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