その好きの行方
」のレビュー

その好きの行方

三月えみ

気持ちに迫る奥深い描写

ネタバレ
2024年6月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ からくりや謎解きは鮮やかで明かされると気持ちいいんですが、気持ちに迫るところまで解釈を進めようとすると難しいです。でも、描かれているものが分かると本当にドラマチックで胸を打たれました。
室戸tは、灯台守を慕って灯台守の孤独を満たしてあげたいと想いを抱いていましたが、いつか自分よりも他の誰かを選んでしまうのではないかと不安に思っていた灯台守は、余命宣告をされ、その上室戸tも進学で自分の元を離れていくと知った時に壊れてしまった。最後は自ら命を絶ってしまう。その時に、室戸tは自分を責め灯台守が自分に遺した女性を好きになるようにとあった遺書の言葉に苦しめられ、プレッシャーから反動で女性恐怖症になってしまう。
自分と同類で、それから自分への好意を持っている出雲先生は、そんな自分を乱す存在でもある。惹かれてもいるのに、いけないと反発する、それから誰にも言えずに沈んだまま、灯台守を思ってよかれとしていた無責任なおまじないが、まだ言い伝えとして残っている…中身は虚しい嘘だったのに。トラウマに縛られて苦しいのにどうしたらいいのか分からない、そんな自分を見つけて欲しいと思っていたんですね。
出雲先生は、室戸tの秘密の真相に少しずつ近付いて、室戸tも自分と同じゲイなんだとまず気付きます。
初めての同性の相手に欲情してるだけなのか、室戸tも出雲先生を利用してるだけの関係なのかもしれない、互いに思いが交錯しながら、初めて身体を交わした時、室戸tはやっぱり自分はゲイであり、男性を抱くことで満たされてる自分に我に返り涙を流します。それを見た出雲tは、欲情だけではなく、室戸tを心から受け入れたいという気持ちになります。
それから室戸tは段々と過去のトラウマから解放されていきます。最後は、今度は友ヶ島からそれぞれ背中を押され、恋人同士になる、というストーリーです。

もしかして、分からなかったのは私だけ?書いていて言葉にするとシンプルにも思えるのに、作品のなかで表現されるものはとても印象的で、出雲tが女装の服を剥かれ下着姿になるところは2人の歪な心象がそのまま表現されて強烈です。
ぜひ、何度も読んで味わってもらいたいです。
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