このレビューはネタバレを含みます▼
「ドリアン・グレイの激しすぎる憂鬱」の続編です。
今回も菅野先生の教養が溢れていました。文学や映画はもちろんのこと、ピセア・プンゲンスという木、カスレというフランスの家庭料理、未知の物がよく出てくること。スマホで検索してなるほどと思いながら読みました。
前作で小説家の白州絵一(しらすえいち、本名 神代双葉)は生まれたときから側にいた白州英知(しらすえいち)と決別して伊集院宙人と恋人になったのですが、今作では英知が双葉の誕生日にやって来て双葉を取り戻そうとします。
いくつかの小説や映画を知っているとより一層このお話のことがわかると思います。双葉と英知は「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラ、映画「禁じられた遊び」のポートレットとミシェルの関係性に似ています。長すぎた冬の果てに重なっていたと思っていたものは少しずつ離れていって...。「星の王子さま」では5000本の薔薇を見て自分の知っていた薔薇はありふれたものだったのだと気落ちしていた王子に狐は「懐けてよ(なつけてよ)」と言います。時間をかけて絆をつくって、別れ際に狐は王子に薔薇を見に行くことをすすめます。王子は気づきます。狐が他のどの狐と違うように、王子が一生懸命 世話をしていた1本の薔薇は5000本の薔薇とは別物で、その薔薇は強がりや我儘を言って王子を困らせていましたが、王子の心を癒してくれて、そんな薔薇をとても大事に思い愛していたことを。それから狐は秘密を教えてくれると言います。「心で見なくっちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。大切なものは目に見えないんだよ」
ヘルムート・バーガー似と言われる双葉、ヘルムート・バーガーはドリアン・グレイを演じたフランスの俳優ですね。個人的には双葉はジェラール・フィリップで宙人はギャスパー・ウリエルって勝手に思っています。菅野先生によると英知はアラン・ドロンだそうで、かなり分が悪いのですが、宙人がんばれ!って思いながら読みました。このドリアン・グレイの2冊すごく好きです。タイミングであったり、1つの言葉が考えを変えてしまうことがあって、双葉は見えないものが見えたんだなと心に感じました。涙無くしては読めない、そんなお話でした。英知のその後は「太陽はいっぱいなんかじゃない」(アラン・ドロン繋がりですね)で読めます。
2022年9月 総229p 挿絵あり