被写界深度
」のレビュー

被写界深度

苑生

いやーん!作者さんほんとにありがとう……

ネタバレ
2024年10月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ これから作者さん買いしそー!ㅠ ̫ㅠ

素晴らしい。何が素晴らしいのかというと、個人的にクィア表象は自分とも密接に関係する問題でもあり、BLもただの「ファンタジー」では終わらせたくないと思っています。つまり、そこにはやっぱりクィアとしてのガチで苦しい葛藤があることを忘れたくないし、葛藤は少なくてもクィアの中には梅ちゃんみたいにgender-fluid(私はノンバイナリーな人も含むと思っているが、性自認・性表現に流動性をもっている、あるいは両性具有)でいる・自認している人もいることを忘れたくなかったり(国家のためのジェンダーのあり方だけで世界をみたくないし、自分も定義されたくない)。
そもそも“ジェンダー”とは社会がつくるもの、だからフルイドが特異なのではなくジェンダーという概念そのものが特異なのだと私は思いますが。そこら辺を示唆までする描写があったことがすごく嬉しく、この作者さんはエンターテイメントとしてBLを消費するだけの作家さんではないと思った。

「BL漫画の中で描かれる同性を好きになることの葛藤」って、いつの間にか「同性を好きになることの“当たり前の”葛藤」として普遍化されちゃってると感じるのですが、同性を好きになることの苦しさ、どこまで“良い展開”を願っても現実的な踏み込めなさ、でもクィアな関係性を諦めきれなさ、とかがすごーく複雑に混在すると思うんです。アホエロ漫画は好きな時もありますが、現実、あんな簡単に思いを明けられもしないし、明けたとしても双方が恋愛的に好きだとは限りません(異性愛でも同じですよね)。ファンタナイズしすぎずに、時間の経過に伴うふたりの機微を描いていて、作者さんは同性を好きになっても越えられない透明な心理的・社会的な壁をよく描こうとしてくれていると思った。

あと、早川がトラウマ的体験のあとに性活動で自分を守ろうとするのは本当に心痛かったが、これもお見事と思った。まさに心理的な防衛によるものだと思うし、じわじわと山下くんを蝕んでいく経済格差による羨望や嫌悪感の描写など、苑生さんの背景描写が本当に現実的で、社会的で政治的で、漫画にそういう要素を入れようと思ってくださったことが超嬉しいのですが、入れるだけでなくこんなに感情移入できる作品に仕上がっているのが作者さんの力量だなと思いました。
本当に本当に、すごく良い作品です。読み返してます!
いいねしたユーザ24人
レビューをシェアしよう!