死にかけ悪役令嬢の失踪~改心しても無駄だったので初恋の人がさらってくれました~
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死にかけ悪役令嬢の失踪~改心しても無駄だったので初恋の人がさらってくれました~

和泉杏花/ささきさ/鈴ノ助

自身の責務と心の在り方

ネタバレ
2024年10月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ よくある悪役令嬢の断罪回避劇かと思っていました。丁寧な絵とファンタジーで綴られるそれは。意外にもシンプルな訓話だったのです。王太子と婚約が決まっていたシレーナは、自分が悪役令嬢で追放されると分かった瞬間から、家族と不和にならない様にと心を砕いて来た。王太子妃教育にも身を入れて励んで来た。それなのに。家族はアッサリと彼女を見捨てる。家族に悪気は無かったのだ、と思わせてはいる。虐げはせずとも、面倒ごとは全てシレーナに押し付けて。横恋慕して来た妹の為に王太子妃の立場を譲り、継母に邪魔だからと魔物島に「間違って」転移移送されて殺されかけたのだ。最後まで「悪気は無かった」と言い募る継母に本当に悪意は無かったのか?先妻の子より我が子を王妃にしたいという欲が微塵も無かったのか?物語はそこを追求しない。彼等を断罪もしない。分かってるのか分かって無い様な有り様。シレーナは他国の貴賓が納得する様な成果を妹と王太子に上げて頂ければ、と言っただけなのに。シレーナを亡き者に(元々は病気療養という名目)してしまえば解決すると信じた浅はかさ。シレーナの淡い初恋の相手、魔術師・フォードは、そんなシレーナを家族から引き離し、精神的に自立する救けをするのだ。過度の情けや自己犠牲は、何の為にもならないのだと。特に。今、忙しいだけで、自分の時間を削られ、感謝されるでも無く虐げられている、と感じている私には刺さりました。「ですからどうか誇って下さい。その気遣いを、優しさを。決して恥入る事だけはしないで欲しいのです。」というフォードの温かい言葉。疲れ果てた私にそんな言葉をかけてくれる人は居ない。馬鹿だね、浮かばれないのにと謗られ貶されるだけなのに。何故自分は頑張って生きているのか分からなくなっていく。ここはファンタジーの世界。だから私はフォードの言葉に縋りたい気持ちになる。この物語を読んで少しでも、傷付き疲れた人達が自身を顧みて、少しでも癒されます様に。そして過度の情けや気遣いは、かけられて当然と他人は傲慢な者なのだから。気に病む必要すら無いのだから、と。そう、シレーナが後半に気付いた様に、「何故、いつも、こちら側だけが気遣わないとならないのか。」は、気遣いの出来る人達側の永遠の課題でもある。この物語が示すシンプルなメッセージが少しでも誰かに届きますように。
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