このレビューはネタバレを含みます▼
1人の将軍が功績をたてる裏に、戦場で多くの兵が犠牲になっているという故事成語がある。
鬼と人間が共存するこのお話の世界はまさにその雰囲気をまとっていて、外敵から守ってくれる鬼種族を生かすため100年に一度人間はその身を捧げ犠牲になる…しかも、自ら志願して。生贄をこのうえない栄誉とする洗脳が宗教絡みで親の口から語り継がれ、食物連鎖の理論によりあっさりと受け入れられていく様は見ていてちょっとゾッとする。
そしてそこに疑問を持ち始めたのが人間ではなく鬼側であることにこのお話の深さを感じます。
黙っていれば勝手に口に入ってくるご馳走を、なぜ命を賭してまで拒絶する鬼が現れたのか…
人間を知り、愛してしまったからなんですね。
おそらく初めて生贄を食すことに疑問を持ち始めた鬼の宵は厭世観念にやられてしまったけれど、桃という希望を伴った玄柳は打開策を見つけ、彼と同じ道を辿らずに済んだ。
世界観や設定が本当にしっかり組み立てられているから、思わず不満が飛び出しましたよね。もし鬼がその偉大な力を「人間を食べなくていい方法」に全振りしていたらこのお話は成り立たないんだけれどもみんな悲しい思いをせずに済んだよなあ…と。
なんやかんやで不幸の連鎖が断たれ新たな道を歩き始めた鬼と人間。
その先頭に立つ玄柳と桃が万感の思いを胸に愛し合う姿を見届けられたところで、とうとう涙腺が崩壊しました…
かわいい絵柄に騙されてはいけません。
ものすごく考えさせられる内容です。