黒い聖者は二度笑う
」のレビュー

黒い聖者は二度笑う

サガミワカ

人は自分を映す鏡

ネタバレ
2025年2月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作は『聖者は甘く囁く』『聖者は愛を謳う』と併せての三部作。悪そうな神父とチョロめの警官に少しでも萌えたなら、三作すべて読むことをおすすめします。
そして突然ですが、神社の御神体がなぜ鏡なのか考えたことはないでしょうか…
この物語は天使のようで悪魔な神父とトラウマを抱えた新米警官のカップリングで軽快に話が進んでいくのだけれど、見る角度によってはすごく精神的な作品と評価せざるを得ない。
たとえば自分がさんざん目を逸らしてきた事実を突きつけられたとして、正気を保っていられる強者はどれほどいることか…必死に守ってきた心のやらかい場所を唐突にグリっと抉られたら、痛いし苦しいし逃げ出したくなるのが普通であるとおもう。ところがこの混血神父である暁(あきら)は、なんなら恍惚として告解や懺悔をやってのけてしまうから、暴かれた人によっては暁が救いようのない悪魔に見えるし救いの天使にも見え、そこら辺の感情的な受け取り方がちょっと難しかったりして。
わたしはどちらかというと新米警官・鋼(はがね)のチョロさと、暁を勝手に天使だと思い込んで期待通りにいかなければ「裏切られた!」と急に手のひらを返すいかにもなステレオ思考の方が気になりましたが、暁のブレないサイコパスぶりの影響もありそこは巻を追うごとに鍛えられていきます。そして最終的には甘々な2人に。
そんなわけで(どんなわけで?)わたしには暁が悪魔にも天使にも見えず、レビュー冒頭の「人は自分を映す“優れた“鏡…」という結論に至った次第なのです。そもそも天使も悪魔もなく、自分に都合が悪ければそれは悪魔の囁きだと決めつけたくなるし、耳障りのいい言葉だけはちゃっかり福音としていたりするし。ラブやハプニングに酔いしれるだけでなくそのくらい穿った視点でこの作品を読むと、2倍も3倍も楽しめる。
そんな感じで事件と問題を乗り越えつつ、鋼は暁のおかげで閉じ込めていた感情やトラウマに向き合えるようになり、暁は暁でモンスターのような自分を知りたいと泣いてくれた唯一無二の伴侶が見つかったわけなので、わたしには全然ハッピーエンドに思えました。
いいねしたユーザ3人
レビューをシェアしよう!