恋愛体質 恋を知らない僕が君を愛するまで【単行本版】
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恋愛体質 恋を知らない僕が君を愛するまで【単行本版】

近藤旭

恋愛の話

ネタバレ
2025年4月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ 構成が完璧だなと思いました。第一巻、二巻、三巻、それぞれ一冊ずつ語られる内容が違って、テーマも割り振られていて、だからこそ最後の展開でそれらが全て一つに集束していって意味を成していくのを見るのが、すごく気持ちよかったです。
特に三巻の、穏やかに感情を育んでいくパートが、個人的にすごく好きでした。それまでの物語がかなり息の詰まる内容だったというのもありますが、だからこそ少し休息を取れるような、本当に足りていなかったものが気づかず満たされていくような、そこからこの二人の本当の始まりに向かっていく、希望に続く流れを丁寧に見せられて、ボロ泣きしてしまいました。あの穏やかなパートは、本来の恋愛ものであれば二人の距離が縮まる過程の、最初の方に描かれるはずのものです。一宮さんと深山さんの場合は、始まりが複雑なので、そういう部分が飛ばされています。そしてそれを、物語としては最後半に持ってきて、丁寧に時間をかけて描かれて、〆の説得力を持たせています。恋愛ものは、ドラマチックなパートも見ていて楽しいですが、連続していく日常の中で育つ人間同士の関係性と感情、が一番見ていて楽しいです。
一つ一つは些細でも、積み重ねられた確かさ、みたいなものが好きです。この作品を読んでいて改めて実感しました。登場人物の、過ごしてきた過去と経験による、現在の有様。登場人物たちが交わることによって起こる出来事と、それらによって生まれる波紋。この作品はそこら辺の塩梅が結構シビアで、堅実だなと思いました。その体現が一宮さんなのかなとも思います。魔法や特別な能力はないし、突然ものすごいセンスに目覚めたりしないし、失敗はなかったことにならないから、一つずつ誠実に向き合って、その時の全力を尽くして、努力を重ねていく人、そういう話。かっこいい。尊敬。
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