アバウト ア ラブソング【単行本版】
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アバウト ア ラブソング【単行本版】

夏野寛子

夏野作品の中で1番すき

ネタバレ
2025年4月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 好きだからこそ追わない……星名のその気持ち、わからないでもない。

アラサーバンドマンと高校生が何年もかけて少しずつ距離を縮めるちょっぴり切ない恋物語。
同性であることに抵抗もなく惹かれ合っているのならとりあえず付き合ってもよかったのでは?と、軽々しく言ってしまいたいところですが…28歳にしてみれば大学生でもギリの射程範囲内だというのに、よもや瀬戸くんが受験を控えた高校生だったとは。
すでに自活している星名とは違い、瀬戸くんは自分の進路もままならないうえ親御さんの保護下にある。そんな彼と若かりし頃の自分を重ね合わせ瀬戸くんの直感を肯定する場面があるのですが、それは散々迷っていた進路を後押ししたつもりなのであって…恋愛となれば話は別。仲間に釘を刺される程度には快楽主義者な星名であっても、瀬戸くんを適当に扱っていい相手ではないと総合的に判断。星名を求めるまっすぐな瞳に吸い込まれそうになりながら「大事だから君を追わない」という自分なりのけじめを歌に託すことに。気持ちを込めたラブソングをまさかさよならに使うとは思わなかったのですごく胸が締め付けられました…こちとら得意分野で瀬戸くんを口説き落とすコテコテ展開が待ち受けているものだと安心していたので……
苦手なはずのラブソング。実体験をもとにした切ないその旋律は、はからずもバンドを紅白歌合戦出場にまで押し上げることとなる。

瀬戸くんには失恋ソングだっただろうけれど、いっときの性欲や感情でどうにかできないくらい大切に思う深い気持ちの表れだったのではないだろうか。実は性欲オバケ(小冊子参照)な星名が卒業後も手を出さずにいる様子が描かれていることからも、やはり並大抵の覚悟ではなかったのだろうと思わせられる。
その点は、5年もの間付かず離れず星名を想い続けた瀬戸くんも全然負けていないけれど。
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