フールナイト
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フールナイト

安田佳澄

奇想天外なSF

2025年5月1日
光を失った地球で酸素を得るために、人為的な処置で人間が植物化する社会。
初めて聞いたその発想も凄いが、植物化する過程にあるヒトの絵面がかなり衝撃的。
とっかかりこそ、父親が転身した木を探すピアニストの個人的な話だが、それはこの世界観を理解するための序章に過ぎなかった。
植物化しているのに俊敏に動き回ることのできる殺人鬼を追ううちに、この社会の構造や物語の大きさが見えてくる見事な展開。
呼吸をするために重税がかけられ人々が生きることに精一杯で疲弊したこの社会の本当の姿が見えてくるにつれて、物語の当初から時々出てくる「南極」というキーワードの謎が解けてくる。
貧困や格差といった今の社会問題も想起させる悲壮な世界観の中、期限付きの人生と引き換えに特異な能力を得た主人公と周辺の人々との温もりのある関わりに慰められる。
予想を超えた展開に驚きつつ10巻まで読んだが、どう決着するのか先行きがとても楽しみだ。
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