ちょっと待とうよ、春虎くん
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ちょっと待とうよ、春虎くん

あめきり

笑顔の裏にある諦めと涙に気付けるか

ネタバレ
2025年5月5日
このレビューはネタバレを含みます▼ いや~素晴らしい作品でした。高評価でレビュー数も多いのも頷ける。
スイくんと春虎くんの恋愛模様の中で、1巻は自己尊重と友人へのカミングアウト、2巻は家族へのカミングアウトが大きなテーマとしてあったと思いますが、これがもう本当に素晴らしかった。
1巻はスイくんの気持ちが痛いほど伝わってきた。先輩に拒否され傷ついた上に、友人達にゲイをからかわれ笑われ揶揄される対象として自分を表現するしか学校に居場所がなかったスイくん。
自分のアイデンティティをそんな風に表現せざるを得なかったのは、どれだけ辛く哀しく苦しく悔しかっただろう。でも自分はもうそれしかないんだって諦めざるを得なかった。
スイくんみたいに無理して、笑顔で諦めて、笑顔で偽って、笑顔で隠して、笑顔で自己否定してる人が、世の中にまだたくさん居るんだろうと思うと、本当に泣けてくる。自分も思い当たるとこあり心が痛い。
スイくんが、本来の自分を否定したり隠したり偽ったりせず、全てありのまま受け止め受け入れてくれる春虎くんに出会えて、ありのままの自分らしく生きる一歩を踏み出せたのは本当に良かった。偽りなくありのままの自分を認めて受け入れるって本当に難しい。自分を大切に思えない自尊心低下は時として生きる気力も奪う。そういう思いを否定せず一緒に分かち合える人の存在はとても貴重だし、出会えた人はラッキーだと思う。
2巻はスイくんと母親の関係性がリアルで泣けた。高齢出産の母親の気持ちとそれを思いやるスイくんの気持ちと。どちらが正しいとか間違ってるとかじゃない。どちらもとても大切な人を想う嘘偽りない正直な気持ち。だからこそ、伝えるべきか伝えないべきか、いつどんな言葉でどう伝えるか、伝えた後も伝えなかったとしても、あれでよかったのか、どうすればよかったのか、他に選択肢はなかったか、いつまでも悩み悔やみ考え続ける。カミングアウトはもちろん告知や重大な選択など、人生で経験するだろう普遍的な問題について、改めて考えさせられた素晴らしい作品でした。
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