愛の実験 新装版【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】
」のレビュー

愛の実験 新装版【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】

kanipan

ヒーリング成長譚

ネタバレ
2025年5月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 飄々としていて本音の掴みづらい方が、心に触れられて動揺している様が好きです。特に、自分から相手を振り回したり、相手に押しかける分には躊躇いがないのに、相手から来られたり予想していなかった反応を示された時に、自覚できない嬉しさで動揺している様にときめきます。
千紘さんの、余裕がないことを隠すような余裕のなさというか、自分の身の上を他人事として俯瞰しないと立っていられないような弱さが、痛々しくて読んでいて苦しかったです。思春期の学生で環境が複雑となると、こうならざるを得ないのかもという同情と、どうにもできない怒りが込み上げてきます。なので自分は由一さんの気持ちが分かるなと思いながら読みました。
最初の入りの辛さが染みているからこそ、千紘さんの中での恋が由一さんの形になっていくのが、見ていてすごく楽しい!最初は共依存じみた始まり方だったと思います。由一さんは、不安定で目を離したらいなくなりそうなほど、隠したがりで消極的な千紘さんが、自分にだけ弱みやエゴや執着を見せてくれる姿が、嬉しくて興奮する。庇護欲の昂りで性癖が壊れたみたいな感じかな。千紘さんも、不安定な自分を自覚していて、だから絶対の信頼が置ける由一さんに縋った形だった。その千紘さんが本当に安心して、求めてくれるようになったり、委ねてくれるようになる過程、可愛い…。そのために由一さんが考えて選択して成長する過程もちゃんと描かれていて、素敵です。始まりは、二人ともどこか頼りなく、幼いこともあって、ハラハラしながら見守る、というような読み心地だったのですが、最後まで読むともう親みたいな気持ちになります。
他に入っていた短編も最高で、日光浴びるよりこれ読んでた方がセロトニン出るんじゃないでしょうか。心臓のありかという短編が入っていて、その中に「だって愛嬌あるだろ 自分の弱点簡単に見せてしまうなんて」というモノローグの一文があるのですが、kanipan先生の描かれる登場人物から感じる可愛らしさは、これが一つの要因だなと自覚しました。表面の一枚下に潜む、自分が普段見せない面に、弱さや恥じらいを感じている人。それをただ一人に明け渡して、受け入れられることに喜びを感じる人。そういう人の愛嬌を可愛いなと思って読ませていただいています。
いいねしたユーザ2人
レビューをシェアしよう!