おとなになっても
」のレビュー

おとなになっても

志村貴子

言語化し難いいろんなもの。

ネタバレ
2025年5月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ そういうものを言葉にすることなく空気で感じさせてくる志村先生すごい。作画や空気感で見せてくる。綾乃の初恋が高校の同級生で、相手も綾乃を憎からず思っていたのに、綾乃が相手を拒絶することになった一言『綾乃が男の子だったらな』これを褒め言葉というか、何気なく言った相手に綾乃は傷付いたんだよね。『男の子だったら』? じゃあ、男の子ではない綾乃は? 無価値なの? となる。そこまではっきりした否定ではなくとも、条件付きの肯定には否定が含まれる。綾乃は、ありのままの条件無しの自分を好きになってほしかったから、あの瞬間実質失恋したのだ。その辺を一切モノローグやセリフを使うことなく表現されてる志村先生ホントにセンス良い。また、同じく一切言葉にされてないけど、綾乃の夫と義父。一度も家事をやる描写がない。それって、そういう男ってことだよね? 人柄はそこまで悪くないものの、おそらくこの作品の雑音になるから描かれていないだけで、夫も大概クズ。でも、クズ夫であることをわかりやすく言語化してしまうと、既存の百合漫画みたいに『男にうんざりした女性が同性に走った』つまり、異性からの逃避であると思われるのを避けるためなんですよね。同性愛って後天的なものもあるかもしれないけど、素質的には先天性なものであり、綾乃の同性への愛に『男性への嫌悪』という異物を混入しないために、クズ夫でありながら、その描写をいれないよう気を使われている。こんなに丁寧に女性の同性愛を描かれている作品もなかなか無い。既存の百合漫画の気になりポイントを全てクリアしてくれるの最高です。でも、丁寧に背景化されてるだけに、読み手も注意深く拾わないと見逃してしまう。あとは、とにかく絵が可愛い。志村先生は山風の二次創作からはまったので、この頃の絵柄が本当に可愛くて大好き。
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