このレビューはネタバレを含みます▼
高校時代の片思い相手・真城洸輔と偶然再会した奏振一郎。ゲイであることをカミングアウトし、「また好きになりたくないから放っておいて」と拒絶する奏に、真城は「また好きになってよ」と真っ直ぐな想いをぶつけてくる。過去の経験や周囲の目に傷ついてきた奏は、一歩踏み出すことができずにいたが、洸輔は空白の6年を埋めるように奏に踏み込んでいく――。
心理的虐.待や、マイクロアグレッションの積み重ね、家族の無理解がどれほど人を追い詰めるか、読むほどに胸が苦しくなります。それは覚悟じゃなくて麻痺だよ!見捨てたんじゃなくて生きるために離れるしかなかったんだよ…!と叫びたくなるほど、親の呪縛の根深さが描かれています。歪で険しい人生を歩んできた二人の姿は、せっかく自由になれたのに、羽が傷ついてるせいで上手く飛べずにもがく鳥を見ているようで、胸が痛みました。
BL願望を現実に持ち込む腐女子、理想の王子様像をぶつけてくる夢女子の描写も強烈で、カミングアウトの当然視や、断られることを想定しない傲慢さに強い憤りを覚えました。理由を問い詰める必要がどこにあるのか?優しさの皮を被った無神経は、暴力と紙一重だと改めて思います。この二人、後に茶飲み仲間になりますけど、反省してませんよね?
家族について考えさせられる場面も多く、親や家庭にトラウマがある方は読むのに注意が必要かもしれません。
子供は、親の理想を叶える為の道具でも、カウンセラーでも、サンドバッグでもない。ありふれた家庭の中に潜む抑圧や、有害な男性性の連鎖が齎す影響が滲み出ていて、親の呪いを断ち切る難しさを感じました。逃げることもできただろうに、正面から向き合った真城と奏の勇気に拍手を送りたいです。
結婚式に参列して、気持ちとしては結婚したいだろうに、現状どうにもならないから「真城さえいれば」と願ってからのあのサプライズ…あれは泣きますよ。いつか絶対に役所と式場に行こう。二人を結婚させてくれよ…。
普通に不満を溜めて、喧嘩もして、でもその都度話し合って乗り越えていく。そんな二人の関係が、まさに〈家族〉の形で、読み終えた後には幸せが胸に残りました。
修学旅行で二人が知らぬ間に誰かの救いになっていたという描写にも、希望を感じました。3巻終盤までは読むのに気合いが必要でしたが、それでも、読んで良かったと思える作品です。