セシルの女王
」のレビュー

セシルの女王

こざき亜衣

我が王への”愛”

ネタバレ
2025年8月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大変面白い優秀作品です。
史実にかなり忠実な点も素晴らしいですが、特に人物の絡みや心理が良く描かれている点が実に面白いです。
中でもトマス・クロムウェルが、自分が処刑される事態になった原因として「”我が王”を愛せなかったからだ」とセシルへ告白する場面は、非常に感銘を受けました。
この王への”愛” ー 男女間のものというより、魂の合一(史実でエリザベスがセシルを「My Spirit」と呼んだような)と言うべき”愛” ー の有無は、この作品内で重要なだけでなく、実際の歴史上でも重要な要素ではなかったかと思います。
なぜなら、実務家として力量があったクロムウェルやサマセット公たちが、いずれも最期は反逆罪に処せられてしまうのに対し、セシルは、道化のソマーズがヘンリー王から厭われることなく王の死まで傍に居られたように、終生エリザベスの傍に居ることが出来ました。それはセシルに実務家としての高い力量に加え、エリザベスへのこの”愛”があったからこそではないかと思われるからです。
この作品は愛を対立軸の一つとして描かれているので、愛の有無・強弱によって人物像のコントラストが明瞭で、とても分かり易く読み易いです。
動乱を経て、エリザベス統治下でイングランドが大国へと興隆して行くこの時代を、こざき先生が今後どのように描いて行かれるのか大変楽しみです!
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